「過疎バス」概論・第1版(1997年)
First Released : 1997/05/23
Last Updated : 2001/03/25
※この内容は全体的に、現状に比べて古くなっております。最新の記述はこちらをご覧ください。
はじめに
◎路線バスは、
・主に通勤・通学・通院といった日常生活に利用される「生活路線」
・観光などに利用される「非生活路線」
の2種類に分けることができます。
◎このうち特に生活路線については、モータリゼーションと道路整備の進展によって、バスの利用が減少し、路線運行の採算が悪化し、民間バス事業者による維持が困難になってきています。
◎従来、バス事業者の収益を支えてきた都市部の路線についても、近年採算が悪化する傾向にあります。
さらに平成13年度には、路線バス事業の参入・退出を自由にする規制緩和が行われる予定であり、バス事業者が従来行ってきた「内部補助」(都市部路線の収益によって不採算路線の赤字を補填する方法)の枠組も崩壊しつつあります。
◎一方、過疎地域では、急速な人口減少によってバス路線の存立が困難である一方、自動車を利用できない高齢者が相対的に多いことから、福祉の観点からバス路線を維持する必要があります。
また、小・中学校の統廃合も進み、遠距離通学を可能とするためのスクールバス的な路線バスの維持も大きな課題となっています(詳しくは「スクール」路線バスの実態を参照)。
◎そこで、バス事業者・自治体・国(運輸省)によるバス路線維持のためのさまざまな方策が検討・実施されてきたわけです。
過疎バスの現況を知るためには、このような過疎バスを取り巻く状況をよく理解することが必要です。
過疎バス−転落の構図
バス路線の乗客減少と、それに対してとられる対応は、下図のようにまとめることができます。(中井啓介氏作成)
1.第2種生活路線へ・・・まだセーフ
平均乗車密度(バスに乗っている人数の全線での平均)が15人以下になり、かつ運行回数が
1日に10回以下の生活路線は、「第2種生活路線」に指定されます。第2種路線では、路線の
収支が赤字になっており、その赤字の一部が国(運輸省)や都道府県から補助されます。この補助は期限がな
いため、第2種路線のうちはまだ廃止の心配はありません。
2.第3種生活路線へ・・・大ピンチ!!
ところが、更に乗客が減少し、平均乗車密度が5人未満になると、「第3種生活路線」に指定されます。
第3種生活路線の場合、補助の期限が原則として決まっており、それ以降は打ち切られてしまいます。
したがって、その期限以内に第3種路線から脱出しないと、路線の維持が不可能になってしまうということになります。
その間、バス事業者や沿線自治体は、乗客を増やすためのテコ入れを行うわけです。
※平成6年度までは、第3種生活路線に対する運輸省の補助制度(期限は3年間)がありましたが、現在では補助制度が都道府県に移管されています。
したがって、補助路線の基準・補助期間・補助率は都道府県ごとに決定されています。また、市町村にも補助が求められます。
3.廃止か維持か? 迫られる選択
しかし、第3種路線から期限内に抜けられなかった場合、従来通りに民間バス事業者が路線を運営することはもはや不可能となってしまいます。
そこで、バス事業者・沿線自治体・住民は、以下のいずれかの選択を迫られます。
A.分社化・子会社への移管
自社エリア縮小をよしとしない大手バス事業者がよく使う方法です。運営が地元密着型になり小回りが利くとともに、人件費を圧縮することができます。
B.第3セクター化
鉄道では多数ありますが、バスの場合はCに比べてデメリットが多く、ほとんど例がありません。
C.廃止代替バス
自治体が直接バス路線経営に参加するものです。
D.乗合タクシーなどへの移行
バス(定員10人以上)でなくタクシー(10人未満)で運行するというもので、広義にはCに含まれます。
E.全額あるいはそれに近い補助を行う特例を設けて現状を維持
F.一般乗合でないバスへの移行
自治体等がバスを借り切ったり、自ら保有するバスを用いて、スクールバス・福祉バス・通院バス・公共施設巡回バスといった名前で運行する形態です。この場合、乗客は無料で乗車できることになります。
バス停には運行目的が明記されます。
G.廃止
従来、Aの手法を多用してきた大手バス事業者でも、路線バス事業の採算悪化や規制緩和を控え、路線からの撤退を提案する場合が増加してきています。
そこで、自治体が乗り出してB〜Eのいずれかの形で存続を図るか、Fのように特定目的に特化するか、廃止を容認するかのいずれかになります。このうち多いのがCおよびFの形です。
しかし、Fは「無料」「運行目的の特定化」が行われており、一般の乗合バスの形態ではありません。
ここでは、自治体が主体的に運営する、有償でかつ一般客を対象とした路線バスである、Cの廃止代替バスについて詳しく説明します。
廃止代替バスとは
廃止代替バスには、
21条バス(貸切代替バス)
80条バス(自主運行バス)
の2種類があります。
※21条バス・80条バスの名称と定義の根拠である道路運送法(バスやタクシーの営業を規定する法律)は99/07/16に改正され、21条バスの記述は42条の2・11項に移されましたが、当ページでは従来通り21条バスという呼称を用いています。
21条バス(貸切代替バス)
道路運送法 第42条の2・11項(旧・21条)には、
「一般貸切旅客自動車運送事業者は、次の場合を除き、乗合旅客の運送をしてはならない。
一 災害の場合その他緊急を要するとき。
二 一般乗合旅客自動車運送事業者によることが困難な場合において、運輸大臣の許可を受けたとき。」
と書いてあります。
逆に言えば、一または二の条件をみたすときには、貸切バス事業者が路線バスを走らせてもよいわけです。
そこで自治体は、廃止代替バスとして、貸切バス事業者のバスを貸し切って、路線バスとして走らせるという方法をとることができます。これが21条バスです。
21条バスには、委託する事業者の違いによって、
1.もともと運行していたバス事業者が受託する
2.もともと運行していたバス事業者の子会社(貸切バス事業者、タクシー事業者など)が受託する
3.もともと運行していたバス事業者と無関係な事業者が担当する
の3通りがあります。
1の場合、廃止前と外見上ほとんど変化がなく、バス停や車両から一般のバスと21条バスとの違いを判別することが困難な場合が多いのが特徴です。
一方、2,3となるにしたがって、バス停や車両塗色の変更、車両の小型化といった変化が顕著になります。
いずれにせよ、21条バスは貸切バスによる運行ですので、緑ナンバー車です。
※道路運送法は99/07/16に改正され、21条バスの記述は42条の2・11項に移されましたが、当ページでは従来通り21条バスという呼称を用いています。
80条バス(自主運行バス)
道路運送法 第80条には、
「自家用自動車は、有償で運送の用に供してはならない。
ただし、災害のため緊急を要するとき、又は公共の福祉を確保するためやむを得ない場合であつて運輸大臣の許可を受けたときは、この限りでない。(以下略)」
と書いてあります。 したがって、公共の福祉を確保するためやむを得ない場合、例えば過疎地における公共交通を最低限保障するためには、白ナンバー車で路線バスを運行してもよいわけです。
そこで自治体は、廃止代替バスとして、自らが保有する白ナンバーのバスを利用してバス事業を経営し、路線バスを走らせるという方法をとることができます。これが80条バスです。
80条バスには、運営形態の違いによって、
1.自治体が直営する
2.民間会社(運転手派遣業者など)に運行を委託する
の2通りがあります。
白ナンバー車は1種免許(普通の免許)で運転することができますから、免許保有者が多く、そのため人件費を抑えることができます。
人件費が大半を占めるバス事業にとって、このメリットは非常に大きいものがあります。
廃止代替バス:21条バス vs 80条バス
現状
現在の路線バス補助制度の基本は、1972(昭和47)年にできました。
このとき、廃止代替バスには初年度のみ一般財源から補助が出ることになりましたが、21条バスに関する規定はなかったため、廃止代替バスは主に80条バスで運行されました。
しかし、1983(昭和58)年に21条バスに対する補助制度ができてからは、21条バスが増加し、最近では21条バスが過疎バスの主流を占めています。
メリット/デメリット
◎21条バスの有利な点
運行を、ノウハウを持つプロのバス・タクシー事業者に委託するため、80条バスのように手探りで運行ノウハウを積み重ねていく困難がなく、経営に直接タッチする必要もありません。
また、公共が直接経営する80条バスではムダが発生しがちですが、民間経営の21条バスはこの弊害を排除することができます。
更に、地域によっては、旧国鉄のローカル線廃止問題と同様に、「○○バスが廃止されてしまうと村のイメージが落ちる」という意見が出ることもあります。
このような場合には、外見上従来とほぼ変わりなく運行することが可能である21条バスが選択されることがあります。
◎80条バスの有利な点
自治体の直営であるため、自治体のバス運行に対する考え方(バス停や車両のデザイン、バス停の位置や間隔、路線・車両決定など)をそのまま反映した運行が可能です。
また、自治体が従来保有していたスクールバスや福祉バス等を利用することができ、これらの一本化・効率化を図ることができます。
更に、21条バスでは一般のバスと見た目にはあまり変化がない場合が多いため、廃止代替バスであるということが分かりにくいのですが、80条バスは自治体運営であるため、
廃止代替バスであることが明白であり、ゆえに「マイ・バス」意識も高まるものと考えられます。
近年は21条バスが主流
このように、80条の場合「自治体バス」の特色を出しやすいことが大きな利点でしたが、最近では21条バスの場合でも、自治体が専用車を購入して事業者に貸与・譲渡したり、
独自デザインのバス停を設置したり、路線やダイヤの編成にも主体的に関わるなどといった動きが出てきています。
すなわちバス事業者は単に運行・車両管理のみを担当し、あとはすべて自治体が行うというものです。この手法が一般化してきたことによって、21条バスを選択する自治体バスの事例が急増しています。
※この内容は全体的に、現状に比べて古くなっております。最新の記述はこちらをご覧ください。
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