加藤博和の「路線バスリサーチ」

第1回 「本宿循環」にかいま見る、名鉄バスの新たな挑戦

First released: 01/01/16
Last updated: 01/06/29


 名鉄バス・岡崎統括自動車営業所管内では、2000年10月2日、10月16日の2回に分け、大幅なダイヤ改正・路線変更を実施し、東岡崎バス乗り場も大幅に変更されました。
 経営悪化でリストラが続けられている名鉄バスの中で、岡崎管内のみは路線廃止も最小限に抑えられてきました。今回の大改編でも、不採算路線での本数削減によって捻出された車両・人員の余裕を新設路線に振り向けることによる、精一杯の積極策を実施しています。

 新設路線のうちで特に脚光を浴びる存在は、名鉄バスで初めて大規模ショッピングセンターとのタイアップを実現した「イオンシャトルバス」(東岡崎〜イオン岡崎SC〜岡崎駅前)や、道路の狭隘な地区に中型バスを乗り入れた「中町循環」(東岡崎→岡崎女子短大→中町公園→東岡崎)でしょう。
 しかしここでは、地味な存在ながら私が密かに注目している「本宿循環」(本宿→緑町南→本宿)を取り上げます。

※路線図は、「路線図ドットコム」岡崎地区バス路線図をご参照ください。


「追加車両・人員なし」 異例づくめの新路線

 本宿循環は、名鉄本宿駅と、駅の南方1km弱にある住宅団地「岡崎グリーンランド」(緑町)や県営本宿団地を結ぶ路線で、2000年10月1日に運行開始されました。
 この路線には、従来の名鉄バス新設路線には見られない特徴が幾つかありますので、それを列挙してみます。

1.駅から非常に近い範囲の路線である
 本宿駅から最も遠い停留所でも1kmちょっとしか離れておらず、運行時分も一周でわずか8分です。運賃も120円均一となっています。従来の名鉄バスでここに匹敵する短距離路線は有松線の鳴海住宅系統(有松駅前〜鳴海住宅)くらいです。これだけ近いところですから、従来は駅アクセスも徒歩や自転車・二輪車・キスアンドライドで十分にカバーされてきました。 ただし、地形的に本宿駅からやや坂を登る必要があることから、バスのつけ入るスキもないとは言えません。いずれにせよ、名鉄バスが名鉄系住宅団地でないところにこのようなアクセス路線を引くのは画期的なことです。

2.半年間の期間限定運行をうたっている
 運行開始にあたって配布された宣伝ビラには、2001年3月31日までの期間限定運行であることが明記されています。これは、この路線があくまでも実験運行的なものであり、利用者が少なければ半年後に運行を打ち切ることを意味するものです。このことは地元も納得の上のようです。

3.新設路線運行による車両・人員の増加が全く生じていない
 岡崎管内の比較的長距離を走る山間路線である大沼線・桜形線・川向線などでは、道路改良によって運行時分に余裕が生じていたことから、10月改正では運行時分短縮を行いました。この隠れた狙いとして、捻出された余裕時間を遅延が問題になっている市内線などの路線に振り向けることが考えられます。
 この見直しは、本宿・額田線(本宿〜額田役場前)およびそれと直通で運行している額田町営バス(額田町役場〜くらがり渓谷)でも行われましたが、他の路線は東岡崎発着であるため、余裕を他路線に振り向けられるものの、本宿発着の本宿・額田線ではそれは困難です。そこで、その余裕時間を利用して、運行時分が短い本宿循環を新設することが考えられたものと推測されます。すなわち、一種の「間合い運用」です。
 結果的に、従来と比べ走行距離は伸びたものの、車両や人員の増加なしに新規路線を開設することが可能となりました。しかし、あくまでも本宿・額田線の余裕時間を利用した運行ですので、本数も本宿・額田線に準じた8便となっており、鉄道(急行が4本/時)に比べて十分な本数にはほど遠い状況にあります。

発車前の本宿循環(本宿駅前バス停にて)
発車前の本宿循環(本宿駅前バス停にて)

このダイヤで利用を期待するのはムリか?

 私がこの路線に乗ってみたのは、運行開始から3カ月近くたった12月末の平日、13時ちょうど発の便でした。上記の通り本宿・額田線と同一行路になっていますので、バスは中型車で運行しており、乗り場も同一です。本宿バス停では数人がバスを待っていましたが、ほとんどは次の額田役場前行き(13:15発<時刻表には載っておらず「当分の間運行」と掲出されている>、本宿循環を一周してきた後にこの便の運行になる)に乗る乗客で、本宿循環に乗ったのは1名だけでした。 そのおばちゃんは時々利用している方のようでしたが、その日から使用が可能となった新春バスカード(通常のバスカードでは2000円で2200円分利用できるが、このカードは2400円分利用できる)を利用しようとして使い方が分からず私に尋ねてこられましたので、いつもは現金利用であったと思われます。

 バスは本宿駅を出るといったん国道1号に出てすぐに左折し、岡崎グリーンランドに上がっていきます。本宿郵便局前の先からグリーンランド内の周回道路に入り、右回りで緑町東・棚田橋・緑町南・緑町西公園・神明西橋と短い間隔で停留所があり、一周して本宿郵便局前、本宿駅と戻ってくるコースをたどります。 本宿駅から最も遠くかつ標高の高いのは棚田橋と緑町南の間で、ちょうどこの付近に県営団地があります。岡崎グリーンランドは一戸建ての住宅地ですが、県営団地は中層集合住宅です。

 おばちゃんは棚田橋で降り、その後乗車はなく、あっという間に一周して本宿駅に戻ってきました。あまりにもあっけなかったため、思わず、予定していなかった13:15分発の額田役場前行きにも乗車し、往復してしまいました。

 以上のように、本宿循環はバス路線としてはあまりにも「あっけない」ものです。県営団地のある棚田橋や緑町南まではけっこうな距離の坂を登るものの、所要時間に比べて運行間隔が空きすぎているため、待って乗るような路線でもありません。乗りがいのない路線ということは、利用する意義もあまり感じられないということであり、実際にも利用は伸び悩んでいるようです。

 朝夕に関しては、今まで別手段を使ってきた人が急にバスに転換することは考えられません。本宿着が6:31と8:12の2本であり、ラッシュ時間からやや前後にずれています。夜の最終も18:55本宿発と早く、通学はともかく通勤利用は困難です。 全体的に想定される利用者は、岡崎や名古屋方面への買物や通院といったところで、実際に最も利用されているのも本宿発9:55の便のようです。

 あと、今まで本宿駅まで自家用車で出て、駅高架下駐車場(1日800円、午後から駐車すると500円)に停めて電車に乗っていた人は、バスを使えば安上がりになります(名鉄パーキングは減収になりますが)。雨の日で、ちょうど時間が合えばバスを利用するということも考えられるでしょう。


本宿循環・緑町南バス停
本宿循環・緑町南バス停から北方の風景

天下の名鉄がこんな路線を実現したことに意義がある

 この路線でまじめに勝負するのであれば、1日8便(おおよそ90分ヘッド)で、しかも間隔がそろっていないダイヤでは話にならないことは明らかです。しかし、自治体からの補助・委託路線である本宿・額田線と額田町営バスの間合い運行であり、ダイヤ設定もそれらが優先になる以上、本宿循環のダイヤ制約はどうしようもないところです。

 本宿循環のみに注目すれば、1時間に4本という急行電車ダイヤに合わせて終日15分ヘッド(一周8分なので1両で可能)とし、需要に合わせて乗合タクシー(ジャンボタクシー)で運行することや、特に夜間は自宅前までのデマンド運行をすることも考えられるでしょう。 また、12年度に本宿駅東に開学した人間環境大学のスクールバス(直営、一部は岡東タクシー委託)と同一行路にして運行するというのも面白い考えと言えます。ただし、以上の方法では名鉄バスが運行する形式にはなり得ないでしょうし、そもそも沿線人口が3000人程度しかない上にほとんどが駅から1km以内に入るこの路線では、いずれの方法でも単独で採算をとるのは不可能と考えられます。

 しかしながら、「せっかく新しい路線をつくっても意味がなかった」と結論づけるのは早計です。 今まで路線バスが乗り入れることが距離的にも採算的にも現実的でなかった本宿団地に路線バスを運行させたというチャレンジ精神こそが、現在の路線バス事業にとって大切なのです。「こんな路線では乗らないに決まっている」とか「これはバス会社がやるような路線ではない」という発想では、とても規制緩和後のバス事業が明るい方向に向かうとは考えられません。

 本宿循環の実現にあたって、現在の名鉄バスをめぐる経営状況とのかね合いから、既存路線から捻出された余裕時間の利用による路線新設に落ち着いたという点は現実的な選択と言えます。極端に言えば、新規走行区間分の軽油代が出るだけの乗客があれば損は出ません。

 なお当然ながら、この路線の利用者のほとんどは本宿駅で名鉄電車に乗り換えると思われますから、バス単独での収支均衡は困難なものの、鉄道に乗客を運んでくれるフィーダー路線として考えれば、トータルの収入にはもう少し貢献していることになるでしょう。
#名鉄は事業部制を敷いており、バス(自動車)部門は鉄道部門と経営的には完全に区分されていることに注意が必要です。


改善策といっても難しいが・・・

 とはいえ、今のままの利用状況で推移すると、半年の運行期間が終了する3月末には結局廃止となる可能性も十分あります。 ダイヤも自由度が小さいため、改善が困難な状況です。あり得るとすれば、終バスをもう1本遅らせ、通勤にも対応したダイヤにすることや、本宿からの通勤・通学定期を持っている客には割引を実施することくらいしか私には思いつきません。いずれにせよ、4月以降の去就に注目したいところです。


(01/04/10追加)
※2001年4月1日から、この本宿循環は「通年運行」となりました。すなわち、2001年度も存続することとなりました。


(01/06/29追加)
※2001年7月1日から、本宿循環の大部分が「西本宿」「本宿サカエヤ」(いずれも新設)経由<往路のみ>に変更となります。スーパーや病院への足を確保することが目的のようです。



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