加藤博和の「路線バスリサーチ」

第5回 「鉄道廃止」は地域公共交通再編のチャンスとなるか? 八百津線代替バス「YAOバス」に秘められた可能性

Last updated: 01/11/01



 2001年9月末をもって、岐阜県内にあった名鉄の鉄道4線区が廃線となり、いずれも代替交通機関としてバスが10月から運行を開始しました。 モータリゼーション進展、人口減少、少子化によって、今後も多くのローカル鉄道で存続問題が話題になると予想される中、代替交通機関としてのバスにどのような設定が求められるのかについて考えることは、一つの重要な観点と言えるでしょう。
 そこで今回は、4線区のうちの八百津線(明智〜兼山〜八百津)代替バス「YAO(やお)バス」を取り上げ、この点について考えることとしました。

※路線図は、こちらをご参照ください。



ニーズに合わないローカル鉄道のリニューアルは必然

 廃線間際、各線では鉄道ファンを中心として多くの乗客が訪れ、最後の賑わいを見せました。 1999年3月末の美濃町線新関〜美濃間廃止のときもそうでしたが、その光景を見ているとつい、「こんなに多くの人たちが訪れてくれるのなら、廃線にすることはないのではないか?」と思ってしまうこともあります。 しかし、現実問題として廃線はやむを得ないものであり、一時の感傷や鉄道ファン的心情でそれを否定することは、大きな誤りをもたらすということを忘れてはなりません。 現に、国鉄改革の際に第3セクター化されたローカル線の多くは、一時は盛り返したものの、現在では多くが経営的に行き詰まる兆しを見せています。

 なぜこれらの路線を廃線せざるを得なくなってしまったのでしょうか? 簡単に言えば、モータリゼーションを基調とする世の中の流れについていけなかったということになります。
 モータリゼーションとは、単に自動車の保有や利用が増大することだけでなく、人やモノの流れそのものを変化させ、さらには住宅や職場の立地、そしてライフスタイルそのものまでも変革させることです。 一方で、廃線となった路線は、マスコミでよく使われた言葉でもある「何十年も変わらず走りつづけてきた」がゆえに、時代の流れから取り残されてしまったのです。
 観光鉄道や保存鉄道としてならともかく、もし生活交通として存続を考えるのであれば、「変わらなければならなかった」のです。クルマがない時には、住民が鉄道に合わせて生活してくれたのですが、クルマがあればその必要はありません。 これはバスでも全く同じことです。移動者・住民の嗜好をどのように満たし、あるいは生み出すかが、鉄道やバスが生き残れるか否かの勝負の分かれ目なのです。

 しかし、赤字を垂れ流すローカル鉄道線が鉄道のままで大きく変わることは、名鉄をはじめ民鉄のほとんどが苦しい経営を続け、しかも公的補助も期待しにくい状況では、資金的に非常に困難であることは自明です。 また、もし鉄道のままリニューアルするとすれば、その方向は「大量輸送・高速性・定時性」という鉄道の特性が十分に発揮されるものでなくてはなりません。 多くの第3セクター鉄道が苦境に陥っている大きな理由は、それらがこの特性を発揮する方向での改善を行わず、むしろ駅の増設によって鉄道の武器である高速性を犠牲にしたことだと考えています。
 しかもこのことは、並行するバス路線をその多くが採算路線であったにもかかわらず鉄道存続を第一義とする方針のために整理され、結果的に地域の路線バスネットワークまでも破壊し、トータルでの公共交通利用者を大きく減らしてしまうという問題も生み出してしまいました。 ニーズに合わないものをムリに残した結果、そのしわ寄せが大きく跳ね返ってきたということです。

 したがって、採算的に存立しないローカル鉄道を見直すための基本方針として、a)鉄道の特性に合った路線は残し徹底的にリニューアルする、そうでない路線は代替交通手段に転換し充実を図る、b)地域の公共交通ネットワーク強化を最大の目的として検討を行う、ということが大切だと考えます。
 代替交通機関としてのバス導入は、路線設定の自由度が高く、直行性によって乗り換えの不便を解消でき、しかも施設・車両投資も少なく済むことから、最も有力な手段となっています。 特にローカル地域では、高速性や定時性といった鉄道のメリットをそれほど損なわないことや、鉄道駅が人口集積地や施設から離れている場合が多いこともあり、バスの有効性はより高まります。

八百津駅
今はもう見られない、名鉄八百津駅に停車中の風景


鉄道と同じように走らせていてはバスにした意味はない

 では、今回廃止された4線区について、その代替交通機関であるバスが、鉄道でとりこぼしていたニーズをつかむための見直しを十分に図っているかと言えば、残念ながらそうなっていません。 一言で言えば、いずれも「代替バス」の域を出ていないのです。

 谷汲線(黒野〜谷汲)は、廃線となった線区の中で最も人気が高かったところですが、名阪近鉄バスが運行する代替バスではダイヤが削減され、しかも私が最も必要と考えていた、一大観光地である谷汲山(華厳寺門前)への乗り入れが行われず、谷汲(旧谷汲駅)止まりなのが致命的です。 谷汲山へは近鉄揖斐駅や樽見鉄道谷汲口駅からのバスがありますが、いずれも大垣からのアクセスとなります。代替バスが岐阜バスの本巣山口停留所を通過する(停車はしない)のをバス車中から見ながら、「岐阜バスが新岐阜・JR岐阜駅から谷汲山に乗り入れていれば面白かったのに」と思わず考えてしまいました。 (ちなみに、このルートは毎月18日に1往復のみ運行されています。)
 同じく名阪近鉄バスが運行する揖斐線一部区間(黒野〜本揖斐)の代替バスは、途中停が増設され、揖斐川町の中心街を経て近鉄揖斐駅までの運行となったことは評価できます。しかし、乗降があまり期待できそうにない揖斐川町役場にわざわざ乗り入れている意図が不明です。 近鉄揖斐駅から揖斐川町中心街へ行く途中で寄るため、この方面からの乗客にとっては不便になってしまいました。
 また、竹鼻線一部区間(江吉良〜大須)代替バスは、羽島市が羽島タクシーに委託する形をとり、羽島市役所前駅発着として乗り継ぎ利便性を確保、減便を抑えつつ100円均一運賃という大盤振る舞いとなりました。 にもかかわらず、バスが小型のため車内混雑がひどいことと、停留所増設が全く行われていないこと、新幹線岐阜羽島駅から利用しづらいこと、岐阜バスお千代保稲荷線(大須〜今尾〜海津町歴史民俗資料館)が浮いた存在になってしまったことなど、課題が残っています。

踏切跡を通過するYAOバス
塩口(旧八百津駅)そばの踏切跡を通過するYAOバス
代替バスも鉄道と同様の運行形態ではいつか行き詰まる



最低限の改善を試みた「YAOバス」

 単なる代替バスではなく、バスとしての特性を生かし、鉄道時代に比べて大きな改善を試みた路線として、今回の廃止4線区の中で私が最も評価しているのが、八百津線代替バス「YAOバス」です。 この路線は、沿線の八百津町・兼山町・御嵩町・可児市の補助により、東濃鉄道が運行しています。

 親戚の多くがこの近辺に住んでいることもあって、子供の頃は八百津線をよく利用していました。その頃から、八百津線の駅の立地に対して疑問を感じていました。 終点の八百津駅は中心市街地と木曽川をはさんで反対側にあり、しかも木曽川にかかる橋は八百津駅から見て低い位置にあることから、駅に向かって坂を上らなければなりません。 しかし、バスに乗ると最低運賃(160円)区間であり、少々もったいない感じもするという、いささか中途半端な距離でした。また、途中駅の中野・兼山・兼山口も便利な位置にはなく、実際にこれらの途中駅では乗降がほとんどない状態でした。
 しかも、LE-Car化によってほとんどの列車が明智止まりとなり、新可児・犬山方面へは乗り換えを余儀なくされてしまう状態となり、ましてや日中には1時間ヘッドとなることもあるダイヤでは、乗客が逸走するのも当たり前と言えます。

 「YAOバス」では、このうち前者の停留所配置に関しては、途中停留所を一般の路線バスなみに増やし、しかも住宅が密集する幹線道路を走行することによって、大きな改善を図ったと言えます。 また、不便な位置にあった八百津駅前(現:塩口)を通り越し、木曽川を渡った八百津町の中心部を経て終点の八百津町ファミリーセンター前(旧:八百津車庫前)まで乗り入れました。 同時に、美濃太田駅からの東鉄バス八百津線や八百津町コミュニティバス「802(やおつ)」なども、従来の八百津駅前から八百津町ファミリーセンター前にターミナルを変更し、町内のバス路線網も再構築されました。

 八百津線廃線で最も危惧されたのは、八百津駅の南側の山上にある八百津高校への足の確保でした。従来から定員の確保が困難であったところに、主要な通学手段である八百津線が廃止されると、廃校の可能性がますます高まるという懸念がありました。 そもそも、八百津線の主要な乗客は八百津高校を始めとした高校生の通学需要であり、その足を確保することが代替バスの重要な目的とされたのです。
 そこで、朝の明智駅発便は八百津高校行きとし、最も需要の多い8:05発はノンストップの直行便として、通学の足を確保しました。もちろん下校時の八百津高校発便も設定されています。八百津高校は旧八百津駅から歩いて行けない距離ではありませんが、かなりの坂を上らなければなりません。 従来からも美濃太田駅や町内の久田見からバスが乗り入れていましたが、明智駅からの直行便運行開始によって、可児・御嵩方面からの通学生も歩いて坂を上る必要がなくなったことになります。
 また、従来の八百津高校バス停は高校の敷地外にありましたが、YAOバスの停留所は敷地内となったことも小さな改善と言えます。

ファミリーセンター前に停車中のYAOバス
新しくターミナルとなった「八百津町ファミリーセンター前」に停車中のYAOバス
新車はラッピングも鮮やかで、乗客にも好評



しかし、「YAOバス」に課題は山積

 このように、単なる代替バスにとどまらず、多くの路線改善を行ったYAOバスですが、むろんこれで十分とはとても言えません。むしろ、運行開始によって、多くの問題点が目に付くようになっています。

1)高い運賃
 鉄道からバスに転換するにあたって常に最も問題にされるのはこの点です。100円均一とした竹鼻線代替バスを除いては、いずれの代替バスも従来に比べて運賃が上がっています。
 YAOバスでは従来の東鉄バスに比べて割安な運賃が設定されていますが、明智〜八百津間の鉄道運賃(290円)に比べ、明智駅〜塩口間は350円、明智駅〜ファミリーセンター前間は400円となっています。 これは致し方のないことで、鉄道時代は収支からみて運賃が安すぎたのを、バス転換によって適正化したという考え方もできます。 また、八百津線について考えれば、従来の明智〜八百津間の鉄道運賃と八百津駅前〜八百津車庫前間のバス運賃(160円)の合計や乗換え(あるいは町中心部から駅までの徒歩)の手間を考えれば、必ずしも割高になったとはいえないという見方もできるでしょう。
 しかし、ほとんどの乗客が明智駅から名鉄広見線に乗り継ぐことを考えると、従来の通し運賃から鉄道・バスで別々の運賃体系となったことで、運賃負担が非常に大きくなってしまいました。 新可児〜塩口(旧八百津駅)は340円から570円、新可児〜ファミリーセンター前は500円から620円となっています。

2)乗り継ぎによる不便さ
 明智駅での乗り継ぎも、鉄道時代は駅構内で済んだものが、バス転換によって、いったん駅を出て駅前のバス停から乗車する形となりました。 駅とバス停との間は少し距離があり、雨の日は濡れてしまいます。また、運賃も鉄道・バスでそれぞれ精算することが必要で、面倒になってしまいました。 ダイヤ的にも、従来は鉄道同士のためダイヤの乱れが少なく、接続時間も少なくて済んだのが、バスの場合にはダイヤに余裕が必要になるとともに、大幅に遅れた場合の接続に不安が生じることにもなりました。 鉄道の時には八百津方面への乗り換え時間が3分、八百津方面からが2分となっていたのが、代替バスではそれぞれ6分、12分となってしまいました。

3)バス道路の狭隘さによる速達性・定時性の欠如
 八百津線のバス化にあたって当初から問題視されていた点です。 明智駅付近、兼山町内や八百津町中心部は道路が狭いため、a)大型バスの投入が難しいこと、b)ラッシュ時や事故等による遅延が大きくなること、c)同じ道を通る自動車や沿道住民にとってバスの通行が邪魔になること、などが懸念されていました。
 また、運行時分も、鉄道では明智〜八百津間で11〜12分であったのが、バスでは25分(明智駅〜ファミリーセンター前間で30分)と遅くなってしまいました。 停留所が大幅に増加しているため、停留所へのアクセス時間は減少しているものの、正味の運行時分が伸びてしまったのは大きなマイナスです。 実際に乗ってみた限りでは、他の路線バスと比較してそれほど問題がある道路とは感じませんでしたが、鉄道に比べて速達性・定時性が劣る大きな原因であることは事実です。

4)停留所の少なさ・施設の貧弱さ
 鉄道時代に比べれば停留所は大幅に増加しましたが、乗車した限りでは、特に兼山町内の住宅密集地について、停留所間隔をもう少し詰めたほうがよいと考えます。 八百津町内でも、八百津本町〜ファミリーセンター前間のちょうど中間にある役場前を素通りしており、ここに停留所を設けてもよいのではと感じました。
 途中停留所のほとんどは上屋やベンチなどの待合施設がなく、停留所ポールが建っているだけです。八百津町のバスターミナルとなったファミリーセンター前も小さな待合施設があるだけで、待つには退屈なところです。 しかも、乗り継ぎ点であるにもかかわらず、統一された時刻表や路線図の掲示もされていません。 私が乗りに行った運行開始当日も、YAOバスの運転手は他の路線についてあまり知らない状態でしたし、YAOバスから北山方面に乗り換えようとした乗客が、ダイヤの掲示を探してうろうろする光景も見られました。

 以上に示した問題点によって、せっかくの改善点が打ち消されてしまっているのが、YAOバスの現状であると言えるでしょう。 せめて車両ぐらいは新しいものが入ると良かったのですが、投入された新車は「東鉄バスインフォメーション&路線図ドットコム」ラッピングされた1両(低床バス)のみでした。 日中はこの新車と在来車両が交互に走っており、新車は沿道の目を引くとともに乗客にもなかなか好評でしたが、それに比べて在来車両はかなり見劣りがしてしまいます。


一層の改善のために何をなすべきか? −日中の可児駅前乗り入れと30分ヘッド確保は必須−

 以上のように多くの問題を抱えながら走るYAOバスにとって、どのような改善がありうるのかについて、主な点を以下にまとめてみましょう。

1)明智駅乗り入れの見直し
 代替バスをどこで名鉄と接続させるかについては、路線設定にあたって議論となったようですが、結局は旧八百津線と同様に明智駅への乗り入れで落ち着きました。
 明智駅乗り入れには、駅前広場が狭小であることや、兼山方面から直接進入する道路が狭くバスの経路が大きく迂回せざるを得ないといった問題があります。 実際に、明智駅と次の東実東との間は、八百津方面行きが7分、明智駅行きが9分もかかっています。また、明智駅付近に商業施設もなく、乗り継ぎ点として適切な機能を持っていないこともマイナス点です。
 私は、代替バスは可児駅前に乗り入れるべきであると主張してきました。理由として、上記の明智駅をめぐる問題に加え、
a)JR太多線からの乗り継ぎも可能であり、多治見方面からも便利になること
b)名鉄も本数が倍増(4本/時)し、接続ダイヤをそれほど気にする必要がなくなること
c)駅前と広見町付近の商店街・病院やショップランド・ハローランドなどの大規模小売店舗にアクセスでき、鉄道アクセス以外での利用局面が広がること
d)通学を除けば、八百津・兼山〜御嵩間の流れはほとんどなく、大部分が可児方面への利用であること
e)現在、日中は2両で1時間ヘッドの運行であるが、明智駅〜八百津町ファミリーセンター前間の運行時分は30分であり、余裕時分が大きい。可児駅前に乗り入れても運行時分は45分程度で済み、増車の必要がないこと
f)名鉄との通し運賃制度が実現困難である以上は、可児駅前まで直通したほうが通しでの運賃が割安になる可能性が高いこと
が挙げられます。
 運賃を可児駅前〜八百津町ファミリーセンター前間で500円程度に抑え、さらに可児市内のショッピングセンターや病院の近くに停留所を設けることによって、YAOバスを単に鉄道アクセスや通学の便のみならず、通院や買物にも利用できる路線へと生まれ変わらせることができると考えます。
 しかしながら、朝夕のラッシュ時は、可児市中心部は激しい道路渋滞に見舞われます。また、御嵩方面からの通学需要も考えると、ラッシュ時には可児駅前への乗り入れは避け、現在のように明智駅発着とする方が賢明かもしれません

明智駅バス停
明智駅バス停 名鉄明智駅は右奥にあり、少し離れている
乗り継ぎは確実に不便になり、駅付近の迂回運転も気になる点


2)通学利便性の確保
 八百津高校や東濃実業高校などへの通学は、YAOバスの乗客の多くを占めるものであり、この需要にいかに応えるかが、YAOバスはもとより、少子化・人口減少による危機が迫る各高校そのものの存続問題にもつながります。
 私は、これらの高校への便は、通常路線ではなく、遠州鉄道の「モーニングダイレクト」のような特殊な系統によって確保すべきだと考えます。その場合、明智駅乗り換えでなく、可児駅前や御嵩駅前からの直行便を設定するのがより望ましいでしょう。 とにかく、八百津線廃止を逆手にとって、高校・生徒・PTA・事業者・地域が一体となって通学利便性を確保していかない限り、八百津高校の存続問題が消えることはないでしょう。
 なお、通学利用を考慮した路線バス整備を試みた最近の例として、愛知県西尾市の西尾東高校があります。八百津高校もこの例に学ぶべきです。

3)貧弱なターミナル機能の充実
 八百津線の途中駅もかなり簡素なものばかりでしたが、YAOバスでは停留所施設が全く整備されていないため、待つことが非常に苦痛な状態です。特に、八百津町のバスターミナルであるファミリーセンター前は、旧八百津駅と比べあまりにも貧弱すぎます。 時刻表・路線図の掲出は当然として、観光案内所や店舗などを設け、回数券・定期券の販売も行うなど、多機能型の結節点として整備する必要があります。
 また、旧八百津駅(塩口)の駅舎や構内が今後どのように活用されるかも注目です。明智駅行きではムリですが、もしYAOバスが可児駅前まで乗り入れれば、旧駅構内をパークアンドライド施設として活用することも考えられるでしょう。

4)観光アクセス手段として活用可能とするための見直し
 以前、父親に、昭和40年代前半の東海地方の観光ガイドブックを見せてもらったことがあります。そこに描かれていた八百津は、蘇水峡・丸山ダム・深沢峡・めい想の森・五宝滝などといったスポットを擁する一大観光地でした。 しかし、その後の観光の広域化によって、八百津の観光地としての位置づけはどんどん低下していきました。今では、これらのスポットで観光客を見ることはまれになってしまいました。
 また、近年、当地出身の「日本のシンドラー」杉原千畝を顕彰し、人道の丘公園や杉原千畝記念館が整備されましたが、観光スポットとしては非力なため、観光客はそれほど多くなく、しかもそのほとんどはクルマで来るため、八百津駅から人道の丘公園へのシャトルバス(休日のみ)が運行されてはいたものの、ほとんど利用されていませんでした。 そもそも、このバスの存在はほとんどPRされておらず、しかも八百津駅にあったバス停も目立たないつくりであったため、利用されづらい状態にあったと言えます。
 YAOバスへの移行により、ただでさえ公共交通でのアクセスが難しかった八百津町内の観光スポットが、さらに行きづらくなったことは確かです。人道の丘公園へのシャトルバスは毎日運行となり、ファミリーセンター前発着に改められましたが、明智駅や美濃太田駅からバスを2本乗り継ぐこととなり、不便さは否めません。 YAOバスと人道の丘公園シャトルバスとは接続ダイヤになっていますが、これでは全く無意味です。
 本格的な観光アクセスとするのであれば、土曜・休日は明智駅から人道の丘公園まで直行する形にする必要があります。現在、シャトルバスはファミリーセンター前〜人道の丘公園間を12分で走っています。 したがって、明智駅〜人道の丘公園間は42分で運行でき、現在の2両でも1時間ヘッドの確保は可能です。 なお、当然ながら、この直通バスが運行される場合には、人道の丘のPRにバスアクセスも織り込んでいくことが求められます。いまどき、このくらいのことをやらないで「客が乗らない」と言っているようでは話になりません。
 関連して、YAOバスと八百津町コミュニティバスとの接続確保によるバスネットワークの形成も重要ですが、特に八百津町北部の中心地である久田見からファミリーセンター前まで運行されている北山線については、できればYAOバスに直通するのが望ましいでしょう。 八百津線がバス化された以上は、単に従来の名鉄八百津駅の機能を八百津町ファミリーセンター前にそのまま移行するのではなく、路線の直通化を図るなどして利便性をより高める工夫が必要です。

5)日中30分ヘッドの確保
 鉄道の時には、日中でも一部を除いて30分ヘッドのダイヤが組まれていました。明智〜八百津間が11〜12分で運行でき、しかも定時性が確保できたことから、1両でも30分ヘッドでの運行ができたためです。
 一方、YAOバスでは明智駅〜八百津町ファミリーセンター前間で30分を要することから、2両でも1時間ヘッドとなり、しかもファミリーセンター前では長い待機時間が生まれています。 もし広見線に合わせた30分ヘッドを確保しようとすると、4両体制となってしまうため、さらに多くのムダが生じることとなります。 しかし、前述のように可児駅前乗り入れが実現すれば、運行時分は45分程度であることから4両体制のままで運行でき、JR乗り継ぎや可児市内アクセスなどの新規需要も期待でき、増車の意味が出てくるものと思われます。
 さらに、人道の丘や久田見などへの直通便の設定に伴って八百津町コミュニティバスがYAOバスにも共通運用されれば、八百津地区全体のバス運行効率を上げることも可能かもしれません。

6)東鉄バス八百津線の見直し
 YAOバス運行開始でますます微妙な立場に立たされているのが、美濃太田駅と八百津町ファミリーセンター前を結ぶ東鉄バス八百津線です。 この路線は平日7往復(美濃太田発の始発は八百津高校行き)となっています。運行時分が30分であることから、普通に考えれば1両で運行可能ですが、なぜか途中で擦れ違うことが多いダイヤになっており、非効率さを感じます。 一方で、美濃太田駅でのJR線との接続も考慮されているわけではありません。
 また、乗ってみると強く感じるのですが、神明堂〜古井(こび)駅前間は狭い道路を通るために非常に時間がかかり、牧野付近の2車線道路でもゆっくり走っているように感じます。
 この路線に関しては、a)神明堂〜古井駅前間の狭隘区間については美濃加茂市「あい愛バス」に任せて国道経由にするとともに、牧野付近でも運行時分を見直して5分以上短縮し、できれば1両で1時間ヘッドの運行を確保する、b)JRの特に岐阜方面との接続を考慮する、などの改善が必要です。
 なお、YAOバスを30分ヘッドにした場合には、現在は東鉄バス八百津線が走っている八百津町和知地区を一部便について経由させる(兼山橋から和知・坂巻を経て八百津本町に至る)のも一案です。 和知経由案は代替バスに関する検討の過程でも出ていたようですが、従来は可児方面に出る便が可児川合経由のわずかな便しかなかった和知地区の潜在需要を確保できるかもしれません。

美濃太田駅バス停
東鉄バス美濃太田駅バス停にて(左:01/09/20、右:01/10/01)
従来の八百津駅前行きもファミリーセンター前行きとなった。車両が不足し、土岐営業所からの転属車を使用



 今回取り上げたYAOバスをはじめ、名鉄の廃止4線区の代替バスはいずれも、時代に取り残されて廃止を余儀なくされた鉄道の反省を十分に汲み取った路線やダイヤになっておらず、むしろかなり不便になってしまったところさえあります。 結果的に需要が先細りになっていくことも予想され、「鉄道廃止は公共交通確保の観点から見て誤りであった」「バスではしょせん鉄道の役割をカバーできない」という論調もよく耳にします。
 しかし、これらの論調は正しいとは言えません。結局のところ、鉄道廃止反対論者も、代替バスの計画者も、鉄道やバスに対する思い込みから抜け出せていないのです。
 鉄道廃止によって、時代から取り残されていた鉄道線をメインとした地域公共交通網を余儀なくされていた状況を打破しリニューアルするチャンスであることに気付かず、「鉄道代替バス」という固定観念にとらわれた路線設定しかできなかったことこそが問題なのです。

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