加藤博和の「路線バスリサーチ」

第7回 「さくら道」に見る過疎路線の今後 JR名金線代替バス乗り継ぎ旅

First released: 03/01/14
Last updated: 04/03/01



 JRバスは、路線バスの中でもどこか特別な感じがします。国鉄分割民営化後、各地域会社が独自色を歩んでいるとはいえ、全国各地で見るその姿には共通点がたくさん残っています。JR駅前にあるJRバスのりばは、一般に他の民間バスに比べ有利な位置にあり、ただ停留所ポールが立っているだけでなく行先等の案内板が大きく表示されています。にもかかわらず、私はいつも、そこだけが何か別世界でもあるかのような雰囲気を漂わせているように感じます。

 私の出身地である岐阜県多治見市にもJRバスは走っていました。東鉄バスは子供の頃にはワンマン化が済んでいたのですが、瀬戸や市之倉に行く国鉄バスには車掌が乗っていて、きっぷの販売やアナウンスをしてくれていたのをよく覚えています。下半田川(しもはだがわ)〜上半田川口間の国道バイパスができていなかった時代、狭いくねくねした旧国道をゆっくり走っていたのが印象に残っています。これは国鉄バス最初の路線であり、将来は鉄道(岡多線)になるのだと、車内で親から聞かされ、早く鉄道ができないかなと思ったものでした。
 しかし、いくら待っても鉄道ができるどころか、このバス路線自体がどんどん減便され、今年(2002年)の3月末をもってついに廃止されてしまいました。多治見〜下半田川間は東濃鉄道が受け継ぎましたが、瀬戸にバスで行くことはできなくなりました。

 これに限らず、このところ全国的にJRバスの一般路線からの撤退が相次いでいます。JR東海バスについても、2002年に入って、1月末に中津川、3月末に岡崎・多治見、そして9月末に豊橋・美濃白鳥・遠江二俣から撤退し、一般路線で残ったのは瀬戸市・春日井市内のみとなってしまいました。
 廃止された路線の多くは何十年も変わらず走り続けてきたものです。多治見に全国初の省営バスが走り始めたのは1930(昭和5)年ですから、72年もの歴史がありました。このような長い歴史を受け継いできたJRバスが、ものすごい勢いで廃止されているのです。まさに「路線バス激動の時代」であることを実感させられます。

 廃止されたJRバス路線の一部は、地元の民間バス会社の路線として改めて運行されるようになりました。多治見の東濃鉄道を始め、中津川では北恵那交通、岡崎では名鉄、豊橋では豊橋鉄道が跡を継ぎました。静岡の天竜線は1946年に遠州鉄道から国鉄に譲渡された路線でしたが、今回56年ぶりに遠州鉄道に戻りました。
 JRバスが撤退した路線を他のバス会社が受け継いで維持していくということは、当然ながら容易なことではありません。経営努力はもちろんですが、あるところでは自治体や国の補助金も得て対処しようとしています。
 そこで今回は、JR東海バス廃止路線の中で最も話題になった「名金線」の後を受けて走る、岐阜バス荘川八幡線濃飛バス白川郷特急バス、そして白川郷から高岡駅まで走る加越能バスの各路線に乗って日本列島を縦断しながら、ローカル路線の課題を垣間見ることにいたします。列島縦断ということもありますが、生まれつき文章力がないため、非常に冗長な文章になってしまいましたことをご了承ください。


※名金線を除くJR東海バス廃止路線の在りし日の姿(写真)は、こちらでご覧になれます

※路線図はこちらです。郡上市八幡地区(旧八幡町)大和地区(旧大和町)白鳥・高鷲地区(旧白鳥町・高鷲村)荘川村・白川村

荘川村主催のJRバスお別れ式
JRバス運行最終日(02/09/30)に牧戸駅で行われた荘川村主催のお別れ式
参加者一同が美濃白鳥行きを見送る(路線図コム様提供)




本当に「驚いた」とすればそれこそ驚き JRバスの一般路線撤退は必然

 バス好きの私にとって、路線廃止は大変つらいことです。しかし、廃止されたJRバスの路線を冷静に観察してみれば、「今までよく残ってきたものだ」と思わざるを得ません。JR東海バスが廃止意向を公表した時、新聞やテレビに、地元自治体や住民のコメントとして「突然のことで驚いた」「廃止されると困る」などと載っているのを見ましたが、本気でそう思っているとしたら地元にもかかわらず実態を知らなかったのか無理強いかとしか言いようがないと思いました。むしろ、「今までこんな路線を維持してくれてどうもありがとう」と感謝するのが正しいような状況だったと言えます。
 そのことが自覚されたのか、撤退にあたってのお別れ式や代替バス発車式では、地元の方からJRバスへの感謝の気持ちが述べられる機会を多く見ることができました。名金線に関しては直接行くことはできなかったのですが、白川村役場や牧戸駅(荘川村)などで盛大なお別れ式が行われたようです。

 ちなみに、同時に廃止された名鉄バスの路線では、あまりそのような機会にめぐり合うことができませんでした。私は9月30日に、名鉄バス豊田・岡崎線の豊田市発東岡崎行き最終便に乗車したのですが、常連だったと思われる乗客の1人が、下りる際運転手に「この路線がなくなるようでは名鉄ももう長くないね。早く新しい仕事を探したらどう?」と恨めしそうに言い残していったことが耳から離れません。
 名鉄バス廃止路線では、代替バスが運行されない場合が多いことからも分かるように、JRより悪い状況のところが多かったにもかかわらず、惜別の声を聞くことはあまりありませんでした。同じ名鉄バスでも、稲武町や旭町、根羽村から撤退した時には、住民が多数出て盛大なお別れ会が行われ、最終便にはバス停ごとに住民が出て「今までありがとう」とあいさつする様子に、よそ者ながら感激いたしました。この違いがどこから生じるのか分かりませんが、たぶん、その地区におけるバス会社や路線のステータスや愛着の違いによるものなのでしょう。

 さて、JRバスがなぜ一般路線から大幅撤退せざるを得ないかを説明しておきましょう。
 そもそも、国鉄バスは、鉄道線の「先行」「短絡」「代行」「培養」という4原則に従って設定されてきました。要するに「線路のない鉄道」です。JRバスに「駅」が存在するのはその1つの例です。
 必然的に、地区間路線が主体となり、生活交通がほとんど考えられない県境をまたぐ路線も多くなります。クルマが普及していない時代にはこのような路線はそれなりに利用されましたが、モータリゼーション進展と道路改良によって、本数が少なく速度も遅い国鉄バスはあっという間に不採算に転落していきました。
 また、国鉄バスの路線は鉄道線の穴を埋める形で設定されたため、一般の民間路線バスと違い、エリアは島状に散らばり、経営の非効率の原因となりました。加えて、官による民業圧迫を防ぐ意味で、収益性の高い路線への参入が制約される一方、路線バス全盛時代でさえ採算性のなかった路線を引き受けさせられ、赤字であってもなかなか廃止できないこともしばしばでした。その結果、到底存在意義があると思えないローカル系統が多数存在しているのもJRバスの特徴でした。路線バスがカバーできる範囲は広がるのですが、各系統の本数が少なくしかも複雑な路線網になってしまっては全く無意味と言えます。
 このような路線では、モータリゼーションや過疎化の前にはイチコロでした。そのため、国鉄民営化・JRバス会社成立のタイミングで多くの過疎路線が廃止されたのですが、地区間路線の多くは温存されたままでした。
 一方で、JRバスの構造的問題として、に民間バス事業者に比べて本社から遠く離れたエリアが多く、地元密着・地域貢献という意識が働きにくい(営業所レベルでは必ずしもそうとはいえませんが)ことや、運行効率も民間バス会社に比べで明らかに劣っていたことも指摘できます。それゆえに、一部路線の移管にあたって規定された「当面は同一路線・ダイヤを維持」という条件は多くの場合不適当であり、実際に、北恵那交通は移管8ヶ月後の10月からダイヤを大幅に見直しています。さらに、JRバスは親会社が大企業であるために公的補助対象外とされることが多く、不採算路線維持にあたっての障害になりました。

 以上のことから、今回のJRバス一般路線大幅縮小は、決して突然のことではなく、むしろ必然であったことがお分かりいただけたと思います。道路整備が進んで時代遅れになった地区間一般路線から退出する代わりに、新たな地区間路線、すなわち高速バスに活路を見出そうとしています。この戦略は、全国に拠点が散在するという従来の欠点を逆に利点に変えるものでもあります。このことは、高速バスの黒字で一般路線の赤字を埋め合わせる構造をとってきた民間バス会社にとって大きな脅威と言えるでしょう。

美濃白鳥駅前に並んだ名金線と大野線のバス
JRバス運行最終日(02/09/30)に美濃白鳥駅前に並んだ
名金線「特急白川郷」鳩ヶ谷行きと大野線の九頭竜湖駅行き(路線図コム様提供)



時代に取り残された感が否めなかった「名金線」

 JR東海バス名金線の起源は、1933(昭和8)年に美濃白鳥〜牧戸間で開業した省営バス白城線にさかのぼります。1948年には鳩ヶ谷に延長、さらに1953年末には岐阜・富山県境の境川橋詰まで延長して金白南線となり、金沢から伸びてきた金白北線とつながって、美濃白鳥〜金沢間が国鉄バスで結ばれました。白川郷と言えば、1年の3分の1は雪で外との行き来が閉ざされるという大変な秘境でしたが、国鉄バス開通によって、時間はかかるものの公共交通で行くことができるようになりました。
 そして1967年には、名古屋〜美濃白鳥〜金沢という10時間にもわたる長距離運行が開始され、路線名も名金急行線と改められました。この時期、1人の国鉄バス車掌の方が沿線に桜を植えていった話は、後に学校教科書や映画にまで取り上げられるところとなり、「さくら道」として有名となりました。名金線は国鉄と名鉄の共同運行となり、絶頂期を迎えたのでした。
 しかし、モータリゼーションと過疎化の波は、名金線の存在を脅かしていきました。1979年に国鉄バスの運行は名古屋〜鳩ヶ谷間に短縮されました。1987年には国鉄が民営化され、88年にはバス部門が独立しJR東海バスが発足、鉄道の越美南線も86年に長良川鉄道に移管され、美濃白鳥営業所管内のJRバスは孤立状態となりました。
 その後、支線系統が整理される中、美濃白鳥〜鳩ヶ谷、岐阜〜鳩ヶ谷、名古屋〜鳩ヶ谷(夏季のみ)の運行は続けられてきました。が、状況が好転することはなく、唯一の名金線直行バスとして残っていた名鉄バス名金線「五箇山号」(夏季のみ運行)は2000年9月30日限りで運行が打ち切られ、そのまま休止となってしまいました。そして、ついに今年9月末をもって、大野線(美濃白鳥〜九頭竜湖駅前:夏季のみ)を含めた美濃白鳥営業所管内のJR東海バス全線が廃止となったのです。

 名金線は路線バスの中では特に有名であったことや、世界遺産である白川郷に行く観光路線であること、白川郷からは高山・高岡・金沢への展開が可能なこともあり、バス好きにとっての定番路線でしたし、特に廃止直前には多くの人が訪れたようです。しかし、残念ながら私は1度も乗車することができませんでした。したがって、JR名金線の状況について詳しく語ることはできません。しかし、私が知りえた情報を総合しますと、やはり名金線は「時代」に取り残されてしまっていたようでした。
 生活交通としては、わずかに正ヶ洞(高鷲<たかす>村の中心地)付近から白鳥方面への通学・通院の流れが目立つものの、荘川以遠からの流動は少ない状況でした。もちろん、白川村・荘川村から白鳥方面への生活交通も存在していました。美濃(白鳥町・高鷲村)と飛騨(荘川村・白川村)にまたがるとはいえ、70年近くも存在した路線であったことや、牧戸〜高山は45kmもある一方、白鳥の方が10kmほど近いこともあり、用事に出るのは高山より白鳥の方が多かったのです。とはいえ、美濃白鳥〜鳩ヶ谷間は65.0km、2時間近い運行で、しかも沿線は人口希薄地帯とあっては需要の絶対量が少ないのは致し方ないところです。
 また、長距離を運行する形態では、各地区でのダイヤ需要にうまくこたえることができません。その端的な例が、牧戸発7:00の朝1便(美濃白鳥経由岐阜駅行き)でした。これは美濃白鳥に7:54に着き、白鳥駅東にある郡上北高校への通学に利用できます。ところが、岐阜バスの郡上白鳥(美濃白鳥駅前)発郡上高校行き(休校日は郡上八幡駅前行き)は7:55の発車で、接続は保証されません。もしこれに乗り継ぐことができれば郡上高校への登校に使えるのですが、特に冬季は雪でJRバスの到着が遅れ、岐阜バスが先に出てしまうことがまま起こります。岐阜バスも郡上高校の始業に合わせたダイヤを組んでおり、接続をとっているわけにはいかないからです。JRバスは8:00に美濃白鳥を出て岐阜駅に向かいますが、八幡での停車は郡上八幡インターバス停で、郡上高校から離れているため通学に使えません。
 また、長良川鉄道は北濃7:10発の列車が7:49に郡上八幡駅に着き、そこから郡上高校行きスクールバスや自転車で通うことができますが、北濃以北からのバスはこの列車に接続しないどころか、次の北濃発7:39(登校日のみ運行)にも接続しません。結局、白鳥以北の郡上高校生は、郡上白鳥まで自転車や親の送迎で出てくるしかありませんでした。

 一方、名金線の最大の顧客とも言える観光客に関しては、夏季運行の名古屋駅発着高速バス「特急白川郷」はコンスタントな利用があったものの、美濃白鳥発着便については、長良川鉄道や岐阜バスからの乗り継ぎが必要であることから、観光客を引き付けるのには難がありました。「特急白川郷」は美濃白鳥以北では一般道を運行する普通便となってしまうため、荘川インターチェンジまで高速道路で行くことができるマイカーに比べて所要時間が大幅に劣ります。途中の観光地である蛭ヶ野高原も往年の力を失い、沿線に多く立地するスキー場への冬季需要にも全く対応できませんでした。
 一般の高速バスに比べて運賃が割高なことも利用が伸び悩む原因となっていたと考えられます。片道運賃は名古屋〜郡上八幡駅前・牧戸・鳩ヶ谷で2580・3850・4760円という高額でした。現在の名古屋〜高山高速バスが、名古屋〜郡上八幡インター・荘川(桜の郷)・高山で1800・2400・2900円となっているのと比べれば、割高であることが一目瞭然です。美濃白鳥〜牧戸・鳩ヶ谷でも1410・2470円もかかるようでは、生活路線はおろか、観光路線としても厳しいところです。
 なお、名金線の運賃体系の名残で、岐阜バスの高速八幡名古屋線は現在でも名鉄バスセンター〜八幡営業所間で片道2580円のままです。名古屋〜高山線では郡上八幡インターバス停が不便な位置にあり、高速シャトルバス(160円均一)が接続しない場合にはタクシー等の送迎が必要であることを考えても、名古屋〜荘川よりも高いというのは納得がいきません。並行していたJRバス「白川郷」や名鉄バス「五箇山号」が廃止された今、2000円程度への値下げが妥当といえましょう。

 白川郷へのアクセスとして逆に伸びを見せたのは、高山から濃飛バス経由で牧戸まで行き、JRバスに乗り継ぐルートでした。濃飛バスは以前からJRバスとの接続時刻表を案内してきましたが、近年のJR高山線特急「ワイドビューひだ」や新宿〜高山高速バス「シュトライナー」の成功によって、名古屋・東京方面から高山へ公共交通で訪れる観光客が増大し、その一部が白川郷までやってきてくれるようになったことで、需要が増大したわけです。
 ただし、牧戸で乗り換える必要がありますし、どちらも普通便で所要時間もかかり、片道運賃も高山バスセンター〜牧戸が1930円、牧戸〜鳩ヶ谷が1430円で、合計すると3360円とやはり高すぎます。もともと濃飛バスは高山バスセンター発着で白川郷観光ができる定期観光バスを運行していましたが、2000年10月から下呂温泉〜高山〜白川郷〜金沢線(ノースライナー)を運行開始(冬季は運休)、さらに2001年3月からは高山〜白川郷間の特急バスを通年で運行開始し、運賃も片道2400円と割安になったことから、牧戸での乗り継ぎはあまり行われなくなってしまいました。

美濃白鳥駅構内のJR東海バスのりば案内
長良川鉄道美濃白鳥駅・駅舎内に掲示されていたJR東海バスのりば案内(現在は取り外された)
駅ではバスのきっぷを購入できた。行き先が幾つか消されているのが分かる



一般路線の代替バスは予想通りの設定 乗り継ぎ地点は「牧戸」から「桜の郷荘川」へ

 以上のことから、もしJRバスが撤退する場合、代替バスは少なくとも美濃白鳥〜鳩ヶ谷の通し運行はありえないと考えていました。JRバスからの退出申し出の後、「岐阜県生活交通確保に関する協議会」では様々な議論があったようですが、結局のところ、牧戸以南では岐阜バスが新たに運行し、以北は白川郷特急バスが代替することとなりました。

 岐阜バスの運行は、4条(一般乗合)路線の荘川八幡線(郡上八幡駅前〜郡上白鳥〜牧戸〜桜の郷荘川)として1日6往復が設定されました。他のJR代替バスと同様、半年間はJRバスの定期券・回数券を引き続き利用することができます。
 この路線で真っ先に疑問になるのは、なぜ白鳥でなく八幡発着としたかということでしょう。確かに、メリットとして、前述の牧戸発朝1便が5分繰り上げられて6:55発となり(桜の郷荘川始発は6:50)、郡上白鳥(7:50発)を経て郡上高校前に直通し、登校便として機能するようになりましたし、郡上白鳥以北から白鳥役場前や白鳥車庫前(白鳥病院や鷲見病院の最寄り)などにも直通できます。しかし、このような直通需要がそれほど多いとは考えられません。一方で、白鳥以北は雪が多く、冬季は遅延が多くなることも予想され、長距離運行にすることへの不安もあります。したがって、通常は上記登校便以外は、従来から運行している八幡線(新岐阜〜八幡営業所〜郡上白鳥)への接続ダイヤとなっていれば十分とも言えます。
 にもかかわらず直通運行とした最大の理由は、運行に伴う欠損に対する国庫からの補助を獲得することであったと考えられます。正式には「生活交通路線維持費補助金」と呼ばれるものです。これが得られると、路線維持が非常に楽になるため、補助条件に該当するか否かはしばしば路線存廃の分かれ目になります。
 その適用条件として、複数市町村にまたがった延長10km以上の系統であることや、1日3往復以上であることのほかに、「広域市町村圏の中心市町村やそれに準じる市町村」にアクセスすることが挙げられています。白鳥町はこれに該当せず、八幡町が該当しています。したがって、国庫補助を得るためには郡上白鳥発着ではだめで、八幡まで延ばさないといけないというわけです。これに関しては、「補助金狙いで違う路線をくっつけるのは変だ」「いや、賢い選択だ」といった意見を持たれるでしょうが、国庫補助の趣旨である「(商店・病院・高校といった一通りの都市機能がそろっている)中心市町村への周辺からの生活交通確保」からすれば、その狙いにうまくこたえた路線ということができます。そもそも、この国庫補助が得られなければ、4条路線としての移管は全く不可能だったと思われます。

 なお、同様の例として、北恵那交通は、旧JRバス恵那線の中津川駅前〜市民病院系統と、付知線の中津川駅前〜付知峡口系統を結びつけた「広域市民病院線」を10月に新設し、同じく国庫補助路線となりました。付知線沿線から中津川市民病院へのアクセスを確保して利便を図るとともに、市内路線で国庫補助要件を満たさなかった市民病院系統を国庫補助路線に取り込んで経営の安定を図った例として特筆されます。ようやくJR恵那線の北恵那交通への移管が本領を発揮したと言えます。

 牧戸以北については、濃飛バスの白川郷特急バスが代替手段とされました。濃飛バスはJRバス廃止に先駆けて4月にダイヤ改正を行って対処しました。具体的には、それまでノンストップだった清見〜白川郷間に「桜の郷荘川」「平瀬温泉」(JRバス平瀬学校前)バス停を新設しました。
 さらに10月にJR廃止区間でのバス停増設が行われるかと思いましたが、全く変更はありませんでした。せめて牧戸くらい停まるようになるだろうと予想していたのですが・・。とはいえ、牧戸までは一般路線の荘川線もありますし、そこから先は平瀬付近を除いてダム水没区間などの無人地帯が長く続きますので、JRバスの停留所はほとんど機能していなかったと思われます。濃飛バスの「平瀬温泉」停留所は旧JRバスの同名停留所から1区間南にあって温泉から多少離れていますが、集落の中心地にあり、地域の生活交通を確保しつつ停留所を1つに限定するとすれば適切な位置であるかもしれません。

(03/12/30追加)03/07/01より、「平瀬温泉」バス停が旧JR東海バス旧平瀬バス停に移動しました。

 今まで牧戸で行われてきたJRバス白鳥・白川郷方面と濃飛バス高山方面との接続は、10月からは「桜の郷荘川」に場を移し、岐阜バス白鳥方面と濃飛バス高山・白川郷方面との接続となりました。桜の郷荘川は、4月にできたばかりの道の駅であり、さらに国土交通省と岐阜県は「バスの駅」にも指定して、バス同士の乗り継ぎやパークアンドバスライドの拠点にすることを考えました。既に濃飛バス荘川線や白川郷・金沢特急バスをはじめ、大阪線や、1往復のみですが名古屋線も停車しています。ここに岐阜バス荘川八幡線が乗り入れて白川郷特急バスと連絡すれば、白鳥方面と白川郷・高山方面との接続が可能になるというわけです。
 牧戸にはJRバスの駅があり、きっぷや物品の販売が行われるとともに、待ち合わせも可能となっていました。しかし、桜の郷荘川は日帰り温泉まである道の駅で、機能ははるかに充実しています。そのため、白鳥方面から白川郷に行く場合、重複運行となってしまうものの、桜の郷荘川で乗り継ぎが行われ、白川郷特急バスの牧戸停車は見送られました。なお、マニアの間で牧戸駅の去就が危ぶまれましたが、10月以降は建物が荘川村に移管されて存続するとともに、岐阜バスや濃飛バスの運転手宿泊施設にも使われるようになりました。
 荘川村にとっては、岐阜バスが桜の郷荘川に乗り入れたことで、荘川村の中で住居が比較的集まっている牧戸〜桜の郷荘川間から白鳥方面へ直行できるというメリットを得たことになります。

(04/03/01追加)03/04/07より、濃飛バス・白川郷特急バスが牧戸にも停車するようになりました。

 一方、白川村にとっては白鳥方面へ行くために乗り継ぎが必要になってしまい、白鳥方面〜白川郷間のバス利用はかなり減ってしまうことが懸念されます。それを補うべく、岐阜バス荘川八幡線と濃飛バス白川郷特急バスとの乗継割引制度が実施されています。具体的には、先に乗ったバスで乗継券を受け取り、次に乗ったバスの運賃が500円以下の場合は80円引き、510円以上の場合は200円引きとなります。郡上白鳥〜桜の郷荘川は1230円、桜の郷荘川〜白川郷は1430円ですが、乗り通すと200円割引の2460円となり、JRバスの美濃白鳥〜荻町合掌集落・鳩ヶ谷間の2470円からわずか10円ですが安くなりました。このように運賃面での工夫は、両社のHPやJTB・JR時刻表でも紹介されています。とはいえ、乗り継ぎダイヤもある程度考慮されているものの完全ではなく、直通に比べればどうしても見劣りしてしまいます。
 濃飛バスの白川郷バス停は、従来通り、合掌集落とは川をはさんで反対側にある「せせらぎ駐車場」内のままとなりました。JRバスは合掌集落内の道路を「荻町神社前」「荻町合掌集落」と停車し、さらに白川村の中心地である「荻町」「鳩ヶ谷」を通っていました。白川郷バス停から合掌集落へは徒歩5分程度で行け、駐車場前には「合掌造り民家園」や「ふるさと体験館」といった観光施設もあり、観光利用にはそれほど支障はありませんが、村の中心地である荻町や鳩ヶ谷へは不便になってしまいました。

(03/05/07追加)03/04/07改正より、白川郷発着便については鳩谷(「ヶ」は付かない。これが正式な地名)まで延長されました。また、牧戸にも停車するようになりました。

(03/12/30追加)03/07/01より、白川郷発着便については荻町に新たに停車するようになりました。


荻町合掌集落付近を走るJRバス
荻町合掌集落付近を走るJR東海バス(路線図コム様提供) この姿はもう見られない


名古屋・岐阜〜白川郷直行バスは存続せず

 JRバスが美濃白鳥〜鳩ヶ谷の一般路線から撤退するのは必然と考えていましたが、名古屋駅や岐阜駅からの系統については維持すると予想していました。
 白川郷の荻町合掌集落は世界遺産で、平日でも多くの観光客が訪れています。高速道路の延伸によって名古屋から自家用車で十分日帰りできるようになりましたが、荘川からは御母衣ダム沿いのくねくねした一般道路を運転しなければならず、けっこう疲れます。高速道路が白川郷インターまで延伸すれば楽になりますが、その時には観光客の増加に対処して合掌集落内への一般車乗り入れ規制が行われる可能性も十分あります。既に昨年からその実験も行われています。以上のことから、観光向け高速路線バスの行き先としての白川郷のポテンシャルは非常に高いと考えています。
 「特急白川郷」は名古屋〜鳩ヶ谷を4時間以上かかっていましたが、白鳥〜荘川を高速道路経由とし、郡上八幡駅経由もやめれば30分は短縮できるはずです。そうなれば自家用車に対する競争力も出てきますし、日帰りも楽になるでしょう。白川郷からはバスで金沢や高山・下呂にも行くことができ、周遊旅行も可能です。そして、JRバスには合掌集落内の道路を通行するというメリットもありました。自家用車の合掌集落内乗り入れ規制が実施されても、安全面に配慮しつつ路線バスを従前通り乗り入れ可能にできれば、インパクトが期待できます。いずれにせよ、白川郷に何らかの形で路線権を確保することにメリットがある(そのためにJRバスは今まで美濃白鳥営業所を存続してきた)というのが私の考えでした。

 しかし、私の予想に反してJR東海バスは全面撤退ということになってしまいました。美濃白鳥以北が普通便なので当然かもしれませんが、この系統の廃止が「生活交通確保に関する協議会」に申し出らさたことにも少し驚きました。どのような路線が生活路線として申し出対象になるかの基準は微妙なところですが、その後、季節運行の大野線の廃止も申し出されており、岐阜県としては基本的にはどんな路線であっても申し出てもらうという方針のようです。

 代替措置は、岐阜バスが従来から運行してきた高速岐阜線(新岐阜〜八幡営業所・郡上白鳥)や高速名古屋八幡線を利用するということになりました。そのため、名古屋ら白川郷にバスのみで行く場合には(もちろん鉄道を併用する方法もほかに考えられますが)、清見または高山で高速名古屋高山線と白川郷特急バスを乗り継ぐか、高速名古屋八幡線・荘川八幡線・白川郷特急バスと乗り継ぐかのいずれかとなります。また岐阜からは、高速岐阜線・荘川八幡線・白川郷特急バスの乗り継ぎとなります。接続ダイヤや乗継割引はある程度考慮されているのですが、面倒な上に運賃も割高で大変不便ですので、いくら積極的にPRしても、一般客にはなかなか使ってもらえないと思われます。

(03/12/30追加)03/11/01より、岐阜バスが高速名古屋白川郷線(名鉄バスセンター〜鳩谷)を、岐阜バスコミュニティ・高速岐阜白川郷線(新岐阜〜鳩谷)を運行開始しました。4〜11月の運行で、名古屋便は毎日、岐阜便は土日祝の運行です。「桜の郷荘川」・「牧戸」・「平瀬温泉」・「白川郷」・「鳩谷」に停車します。


途中バス停が有効に機能していない岐阜バス高速岐阜線

 以上は事前分析ですが、やはり現地に行って乗ってみないことには、ナマの状況は分かりません。そこで、10月に入って最初の土曜に、新岐阜から郡上白鳥、白川郷を経て高岡駅前までのバス乗車に出かけました。

 最初に乗車した新岐阜バスセンター7:50発の高速岐阜線は、我々のグループ以外に3人の乗車で出発、まずは郡上とは反対の南に進路をとり、加納桜道・下川手・岐南インターを経て岐阜各務原インターチェンジから東海北陸自動車道に入ります。
 高速各務原は本線沿いに設けられたバスストップで、岐阜バス北洞停に近く、岐阜市内の尾崎団地・諏訪山団地や各務原市蘇原北部から自転車で十分アクセスできる距離にあります。この付近から路線バスで名古屋方面に出るためには、まず新岐阜まで出ないといけません。高速各務原には名古屋〜関・美濃線も停車することから、サイクルアンドバスライドやパークアンドバスライド地点として整備すればある程度の利用が見込めると思われます。
 本当かどうか定かではありませんが、高速道路本線沿いにバスストップがあるのは日本オリジナルだと聞いたことがあります。しかし、せっかくお金をかけて整備しておきながら、交通拠点としての活用が全くなされておらず、宝の持ち腐れになっているところが目立ちます。東海地方で最も典型的な例が小牧市の桃花台です。名神高速道路開通以来の伝統があった各バスストップ停車の急行便も、2002年5月末をもって全廃となってしまいました。高速バス停は定時性確保や待ちづらさといった問題がありますが、バスロケーションシステム導入や待合施設整備によって十分克服可能なはずです。
 また、パークアンドバスライドと相性がいいのも高速バスの特徴です。例えば、中央道高速バスの駒場・伊賀良・高森には専用駐車場が整備され、多くの乗客が利用しています。東海北陸道高速バスでも全面的にこの方式を取り入れるべきです。

 高速関も本線沿いのバスストップですが、高速美濃はいったんインターを下りたところにあります。近くには無料パークアンドライド駐車場がありますが、停められる台数はわずかです。一方、インターのすぐ近くには岐阜県中濃総合庁舎があり、その裏には岐阜バス美濃営業所があって、「中濃庁舎」バス停には路線バスが集中します。しかし惜しいことに、高速バス停とは微妙に離れており、連携ができていません。ここに来るたび、もう少し近ければと思ってしまいます。
 再びインターを上がると、高速道路は暫定2車線になります。美濃〜美並間は渋滞が起きやすく、ひどい場合には高速バスが一般道に迂回することもあります。そんなに渋滞するなら4車線化すればと言いたいところですが、現在の高速道路整備見直しの流れでは困難な状況になりつつあります。
 美並インターで再び下りると郡上美並バス停です。ここは八幡線の「羽佐古口」バス停に近く、美並村の中心地である苅安からは北に大きく外れています。したがってパークアンドライドや一般路線との接続を確保したいところですが、それも行われていません。インター付近にはコンビニや「日本まん真ん中センター」などがあり、パークアンドバスライド機能を持たせてバス停と結びつければ発展性はあるかもしれませんが、それにしても位置が悪すぎます。


高速バス・路線バス・鉄道網の連携がちぐはぐな八幡町内

 郡上八幡バス停に着き、1人が下車しました。このバス停はインターのランプウェイにあり、高速岐阜線白鳥行きの一部と、名古屋高山線(02/10/01から新たに停車)・大阪高山線が停車します。通過客にとってはこの位置だと時間ロスがほとんど生じないのでありがたいのですが、八幡町アクセスを考えると厳しいものがあります。八幡の中心市街地は長良川を渡った反対側にあり、そこまで歩いていくのはかなり大変です。また、周辺は地形的に狭く、パークアンドバスライド駐車場を整備する余裕もありません
 一方、高速名古屋八幡線や、高速岐阜線の八幡止まりと白鳥行きの一部は、高速道路を下りて町中心部の周囲を回り込み、中心地のバスターミナルとして02/04/01に設置された「郡上八幡城下町プラザ」を経由してから八幡営業所に行くルートをとっています。せっかく多数の便が町内に停車しても、インター停車便と町内乗り入れ便に分散しているのはもったいないと言えます。
 高速岐阜線に関しては、八幡町の21条バスとして、岐阜バスの子会社である岐阜バスコミュニティ八幡が運行する高速シャトルバスが町内へのアクセスを担っていますが、160円を追加して払わなければなりません。それに、名古屋高山線や大阪高山線の大部分の便はカバーされていません。郡上八幡もちょっとした観光地ですから、八幡〜高山という観光移動需要は考えられるはずですが、インター停留所に行くのが大変ですし、城下町プラザでも十分な情報が得られないため、機能していません。また、我々が乗った便では接続するシャトルバスが遅れてきたため、つられて遅れてしまいました。乗り継ぎ客が皆無なのに高速バスが遅れるのは納得がいかないところです。

 郡上八幡インターから一般道へ出る道路は川を渡っています。国道に出たところには岐阜バス八幡営業所があります。ここまで高速バスが出てこれば、岐阜バスの一般路線との接続が図れます。八幡線はもとより、八幡営業所発着の(郡上八幡駅を経由しない)和良線や明宝線との乗り継ぎも可能となります。町内へのシャトルバス運行も、2001・2002年と実験運行した町内巡回コミュニティバスのような形式と組み合わせて運行されれば利便性は格段に向上するでしょう。ここに駐車場を確保すればパークアンドバスライド地点にもできます。さらに国道をはさんですぐ横を走っている長良川鉄道に駅を設ければ、鉄道と高速バス・一般バス・巡回バスの乗り継ぎが可能となり、パークアンドライドも合わせて八幡の一大交通拠点とすることができます。現在のように、郡上八幡駅・郡上八幡インター・城下町プラザ・八幡営業所に拠点が分散しているのは不便です。
 ただし、高速バスが八幡営業所まで下りてくると、確実に10分程度のロスが生じ、JR高山線特急「ひだ」と競争しなければならない名古屋高山線にとっては大きなデメリットになります。それならば、町内巡回バスが本格運行となった場合に、郡上八幡インターまで適宜運行して高速シャトルバスとして機能させることが考えられます。2002年の巡回バス実験では私も乗車しましたが、郡上八幡駅と城下町プラザとの間の利用が多く、八幡営業所方面への利用は少ない状態でした。また、現在の高速シャトルバスは小型バスで運行されていますが、利用者数はそれほど多くなく、巡回バス実験で使用されていた15人乗りワゴン車で十分だと考えられます。

(04/03/01追加)03/11/01より、岐阜バス・高速岐阜線の郡上白鳥〜新岐阜系統が「郡上八幡」高速バス停留所の停車をやめ、「八幡営業所」に停車するようになりました。また、同日に運行開始した高速名古屋白川郷線・高速岐阜白川郷線も「八幡営業所」に停車します。一方、高速シャトルバスは廃止となりました。
 また、03/08/08より、八幡町の中心市街地を巡回するコミュニティバス「まめバス」が運行開始しました。城下町プラザを中心とする8の字運行で、郡上八幡駅前も経由します。八幡営業所の北側に「五町三丁目」バス停が設置されましたが、案内はなく乗り継ぎはあまり機能しないと思われます。また、郡上八幡インターには行っていません。


 次の郡上大和は、インター併設のパーキングエリア内に停留所があります。やはり乗降はなく、寂しい限りです。高速岐阜線の前身である八幡線特急バスは、国道156号線をひたすら走る路線(停車停留所が普通便より少ない)で、速達性に配慮しつつ途中乗降も多く見られ、生活路線として十分に機能していました。まだバスのことをよく知らなかった私にとっては、路線バスの自由度と潜在能力の高さを知ることのできた非常に印象的な路線でした。しかし、現在の高速バスでは残念ながら途中バス停があまり機能していません

 これはあくまでも空想ですが、高速岐阜線を2種類に分け、1つは八幡から一般道に下りるタイプとし、もう1つは超特急として、八幡営業所までノンストップ、八幡営業所で一般路線や町内巡回バスと接続、その後白鳥インター、高鷲インター、ひるがの高原サービスエリア、桜の郷荘川を経て白川郷行きとする案はどうでしょうか。各バスストップにパークアンドバスライド駐車場を整備するのは当然として、白鳥・高鷲の各インターからは各町村営バスにフィーダー輸送を担当させる手もあります。その際、白鳥は美人の湯、高鷲は湯の平温泉もカバーするとよいでしょう。ひるがの高原サービスエリアからは観光施設である「牧歌の里」が近いので、シャトルバスを出してもらえるかもしれません。
 この超特急バスによって、沿線の観光拠点を一通り網羅できるとともに、各地から岐阜や名古屋へ最短時間で出られる路線にもなります。新岐阜〜白川郷で3時間を切る運行ができれば、特に土・休日はマイカーと十分に勝負できる路線になるのではないでしょうか。名古屋を始めとした名鉄電車沿線からも、電車との接続ダイヤと割引きっぷを設定してPRすれば利用は見込めるでしょう。高速道路の白川郷インターへの延伸時をタイミングにして、このような運行を実現させてほしいと思います。

 白鳥インターを下りてから終点の郡上白鳥までの間に、高速バスは白鳥車庫前白鳥役場前に停車します。このように終点近くでこまめに停車して乗客を拾うのは、高速バスならではの芸当です。
 新岐阜から郡上白鳥まで90分、1810円かかりました(往復きっぷは3260円となります)。郡上白鳥は長良川鉄道美濃白鳥駅前ですが、岐阜バスの停留所名は以前よりこの名前となっています。地元民にとっては常識であっても、初めて来た人には郡上白鳥と美濃白鳥駅前が同位置であるとは分かりませんので、不適当と言えます。
 美濃白鳥駅前は白鳥町営バスの発着点でもあります。町営バスのうちJR東海バスが運行受託していた3路線は、10月から岐阜バスコミュニティ八幡の運行に移行しました。また、10月から12月の間、町商工会による町内デマンドバス運行実験が実施されました。この実験の結果も踏まえた上で町内公共交通の見直しが行われると思われますが、いずれにせよ高速バスとうまく連携したネットワークを形成してほしいものです。

(04/03/01追加)03/12/10より、白鳥町営バス阿多岐線・六ノ里線・那留線・干田野線が廃止され、白鳥町デマンドバス(町民限定)に移行しました。


郡上白鳥に並ぶ高速岐阜線と荘川八幡線の車両
郡上白鳥(美濃白鳥駅前)に並ぶ高速岐阜線と荘川八幡線の車両 接続ダイヤとなっている


人口希薄地域をピッカピカの新車が走る岐阜バス荘川八幡線

 次に乗るバスは、郡上白鳥9:25発の荘川八幡線桜の郷荘川行きです。乗り継ぎ時間は5分しかなく、途中で遅れたため少々不安でしたが、ほぼ定刻通りに到着し、運転手さんも心得たもので「少し待てば来るから」とおっしゃいました。実際、写真を撮ったり、長良川鉄道美濃白鳥駅の駅舎内でJRバス案内が取り外されたのを確認したりしているうちに、新品のワンステップLED幕車がやってきました。この程度で乗り継ぎできれば十分許容範囲と言えます。後で岐阜バスHPを確認すると、高速岐阜線と八幡線・荘川八幡線との接続ダイヤが明示されており、八幡営業所で白鳥方面、八幡営業所または郡上白鳥で荘川方面と接続が図られています。荘川八幡線は八幡発朝1便と荘川発最終便以外の5往復は高速岐阜線と接続しています。したがって、これらの便が新岐阜〜荘川間の移動に使えることをもっとPRし、乗継割引の設定も考える必要があると思います。
 それにしてもワンステップLED幕車とは、立派なバスが走っているものです。正直なところ、岐阜市内でなくこんなところで走るのがもったいないような気がいたしましたが、これは荘川八幡線を走ることを前提として得た補助金によって購入した車両であり、他に転用するわけにはいきません。

 郡上白鳥に着いた時には乗客ゼロで、新たに3人が乗車しましたが、赤瀬橋付近で1人が「これって八幡行きじゃないの?」と言い出しました。9月までは岐阜バスが八幡方面、JRバスが高鷲方面であり、遠くから見てもバスの塗色の違いで判別できました。しかし、10月からはどちらも同じカラーになりましたので、郡上白鳥のように上下とも同じ停留所の場合、方向幕や時刻表でチェックしないとこのような乗り間違いが起きそうです。結局そのお客さんは赤瀬橋で降りていきました。次の八幡行きは郡上白鳥9:53発ですが、荘川八幡線のバスですので、郡上白鳥まで歩いて戻らなくても赤瀬橋から乗ることができます。

 荘川八幡線の停留所はJR時代とほとんど変更されていませんが、地元の意向を反映して、一部停留所の名称・位置変更を実施しています。その例として、以前は「北濃○○」だったのが「二日町○○」に変更されました。確かに大字は二日町ですのでその方が正しいのですが、二日町駅前だけは「白鳥高原駅前」に改称すべきではなかったかと密かに思っております。
 北濃バス停は、以前と同様、長良川鉄道の駅舎すぐ前に設けられています。物理的には乗り継ぎは楽ですが、ダイヤの整合がとれておらず、そもそも荘川八幡線は郡上白鳥から郡上八幡城下町プラザ、郡上八幡駅前まで直通し、高速岐阜線にも接続するため、乗り継ぎする意味もそれほどありません。
 長良川鉄道の乗客増加を第一に考えるならば、このような設定はありえず、へたをすると北濃発着になっていたかもしれません。しかし、それが最悪の選択であることは自明です。荘川・高鷲方面からの乗客は速くもない鉄道に無理やり乗り換えを強いられ、着いた駅からもまた歩かなければならないことになります。また、北濃発着では前述のように国庫補助も受けることができず、全額補助しなければならない21条(貸切代替)バス路線となり、ますます路線は先細りになっていったことでしょう。

 実は、このような路線が岐阜県内にも少なからず存在しています。県単補助路線である名阪近鉄バス谷汲黒野線や、21条バスであるYAOバス(八百津=明智線)といった名鉄廃止路線代替バスがその典型です。それぞれ岐阜市や大垣市、可児市の中心部に乗り入れれば買物や通院等の利用が喚起できるはずですが、実際には黒野駅や明智駅という駅前集積の低い駅で不便な鉄道に乗り継ぎさせられ、鉄道もバスも先細り状態になっています。
 そういう意味で、荘川八幡線は妥当な設定といえますが、一方で長良川鉄道の存在意義も問われます。特に郡上八幡以北に関しては、バス路線とどのように役割分担を行い、共存(場合によっては鉄道撤退)を図るかを率直に議論する必要があるでしょう。地方部における鉄道とバスの連携に関しては、また改めて論じてみたいと考えております。

 前谷付近では、JR時代と同様、狭い旧道を通行しています。このこと自体は、集落になるべく近いところに停留所を設ける観点からいいことなのですが、運悪く荘川から来た郡上八幡駅前行きと出会い、すれ違いに大変難渋しました。ダイヤを調べると、この便のみ前谷付近で離合が生じる可能性があることが分かりました。どちらかのダイヤを調整した方がいいと思われます。
 小洞橋からは高鷲村に入ります。我々以外の乗客は中心地の正ヶ洞までで全員下車してしまいました。JR時代は正ヶ洞止まりの区間便が存在しており、実需要を考えると妥当かもしれません。
 正ヶ洞では、ずっと昔は国鉄バス路線であった高鷲村営バスが接続し、鷲見(わしみ)・上野方面に行くことができます。荘川八幡線白鳥方面との乗り継ぎが考慮されたダイヤになっていますが、そんな情報は村外では全く得られません。自治体バスにすることによってネットワーク性が失われてしまう例がここにもあります。

 湯の平温泉は日帰り温泉ですが、施設までは少し歩く必要があります。その後、観光客受けしそうな停留所名が続きますが、わざわざ降りて次の便まで時間をつぶせるほどのところではありません。沿線人口も希薄で、停留所を設けずフリー乗降にしてもいいのではないかと思えるほどです。停留所の設置や維持にはそれなりの費用がかかりますので、もったいない感じもしてしまいます。
 では、これらの停留所の存在意義がないかと言うとそうではありません。停留所がアナウンスされ、デジタル運賃表に表示され、停留所を通過していくことによって、観光客にとっては一種のガイドになっていると言えます。このことの良さは、この後に乗車した白川郷特急バスと乗り比べて強く実感しました。私は、たとえフリー乗降を採用した場合でも必ず停留所は設置し、できれば三重交通のようにフリー集約停留所にも名称をつけるべきだと考えます。その方が降りる方からみても現在位置が分かって便利ですし、乗る方からしても時刻表や利用案内にアクセスでき、そこを路線バスが走っていることのPRになるからです。

 ひるがの地区は太平洋に流れる長良川と日本海に流れる庄川との分水嶺となっている高原です。これから先、庄川の河口近くの高岡までバスで行くのですから、気が遠くなりそうです。
 住宅とともに観光施設も点在していますが、自動車の多くが高速道路経由になってしまったため、勢いが感じられません。しかし、バスで来てのんびり半日を過ごすにはいいところだと思います。なお、ひるがの高原スキー場(夏季はビジターセンターが「ひるがの高原センター」として営業)は岐阜バス系列の奥濃飛白山観光(株)が経営しており、岐阜バスが荘川八幡線を4条バスとして運行する1つの要因となったようです。バス停名は、移管とともに「蛭ヶ野」からひらがなの「ひるがの」へと変更されています。

 ひるがの新開地を越えると道は下りとなり、いよいよ荘川村に入ります。坂を下りきったところがJR駅のあった牧戸です。駅施設は存続し、表示も「JR東海バス牧戸駅」から「岐阜バス・濃飛バス牧戸駅」と変更されたものの、乗り継ぎ機能は桜の郷荘川に譲ってしまったため、実際には乗務員宿泊所の役割しか果たしません。それでもJR時代と同様、わざわざ駅に入って降車場・乗車場と停車するのは興味深いものがあります。なお、この牧戸駅は岐阜バスでは「牧戸車庫」となり、牧戸バス停は信号交差点を東に折れてすぐの、濃飛バス停と同位置に設置されました。
 牧戸からは濃飛バス荘川線と重複します。濃飛バスと岐阜バスの停留所が並んで立っているのは不思議な感じがします。濃飛バスにはある「新淵学校前」が岐阜バスになく(デジタル表示には出るが停留所がない)、岐阜バス「新淵」が濃飛バスでは「荘川役場前」になっているのはご愛嬌と片付けてもいいところですが、やはりきっちりそろえてほしいものです。

桜の郷荘川に到着した岐阜バス
桜の郷荘川に到着した岐阜バス 左端に「祝 荘川八幡線開設」の看板がかかっている


 そして、2度目の乗り継ぎ地点である桜の郷荘川に到着です。郡上白鳥からは60分・1230円かかりました。次の白川郷経由金沢行きは10:35発で10分の連絡です。
 この道の駅には定番の特産品販売所のほかに、日帰り温泉である「荘川温泉桜香(おうか)の湯」やレストランも併設されています。やや小ぶりな道の駅で、特に軽食・飲み物のコーナーが貧弱なのが弱点ですが、温泉につかれば時間を十分つぶすことができます。私がこの道の駅を訪れるのは4度目でしたが、初めて訪れる人にとって10分の待ち時間は短すぎるかもしれません。
 「桜の郷」や「桜香の湯」のように、荘川村では桜がシンボルとして使われていますが、これは、御母衣(みぼろ)ダム完成によって湖底に沈んでしまった昔の村の中心地にあった桜の巨木を湖畔に移し「荘川桜」と名づけられたこと、そしてこれに感動した国鉄バス車掌が、名金線沿線に桜を植え、「さくら道」と呼ばれるようになったことに由来するものです。したがって、「桜の郷荘川」は名金線代替バスの乗り継ぎ点としてふさわしい名称といえるかもしれません。
 なお、宣伝のようで恐縮ですが、この荘川温泉に路線バスで来るためのお得な方法として、岐阜バスパックの「ひだ荘川温泉パック」が用意されています。これは、新岐阜からの路線バス往復と温泉入浴料(700円)がセットになって3500円です(いずれも大人料金)。片道運賃だけでも3040円かかるのですから、ほぼ半額という割引率の高い商品です。「湯の平温泉パック」3000円も用意されています。ぜひ広くPRして、荘川八幡線にたくさんのお客さんが乗るようになってほしいと思いますし、この種の商品をたくさん開発して、路線バス需要を掘り起こしてほしいものだと思います。

 バスや道の駅の写真を撮っていると、岐阜バスの運転手さんが「乗り継ぐのなら、乗り継ぎ券をあげるよ」と声をかけてくれました。乗り継ぎ券のことをすっかり忘れていたのです。しかし、車内掲示やアナウンスで乗継割引のことは一切案内されていませんでした。これは乗り継いだ濃飛バスでも同様でした。停留所にはたいへんきれいな時刻表が用意されていますが、やはり乗継割引のことは全く書かれていません。せっかくいい制度を作っても適切な周知が行われなければ無意味です。きれいなものを作っても重要なことが抜けていては役に立ちません。こういうことがまかり通るようでは路線バスもまだまだダメだと思わざるを得ません。

桜の郷荘川に停車中の金沢行き特急バス
桜の郷荘川に到着した停車中の白川郷経由金沢行き特急バス(濃飛バス担当)
後ろには高山行き(北鉄バス担当)も到着して賑やか



白川郷特急バスの車内は眠気が充満

 そうこうしているうちに岐阜バスはいったん牧戸に回送し、代わりに2両のバスがやってきました。前が下呂温泉から来た濃飛バス運行の金沢行きで、我々がこれから乗る車です。そして、後ろは金沢から来た北鉄バス運行の高山行き(10:40発)です。ここから高速・特急バスでいろいろなところに行けることを改めて実感させられました。
 白川郷特急バスは予約制ですが、我々は事前予約をとっていません。満員の場合は乗車できませんが、乗客は15人ほどでしたので問題なく乗車できました。

 正直なところ、この路線は非常に退屈でした。何度も通ったことがある道で、風景も目新しくなかったこともありますが、それは荘川以南も同じです。やはり、途中バス停が平瀬温泉のみで、あとはひたすら走り続けるという形態であることが原因と思われます。
 沿線風景はやや単調な感がありますが、荘川桜を始め、ロックフィルダムが威容を誇る御母衣ダム、埋蔵金伝説で有名な帰雲城跡といった見所も散在しています。したがって、その案内くらいアナウンスしてもいいと思うのですが、それどころか平瀬温泉や白川郷の停車アナウンスさえありません(テープはあるが流さなかったのかもしれない)。運転手にとっては狭隘区間や急カーブが続く苦労の多い路線ですが、新しい観光車で乗り心地がいいことも手伝って、車内は静寂が支配し、私以外、外国人乗客も含めてほとんどが眠っていました。
 JRバスでは、ほとんど乗降がなかったものの途中にたくさんの停留所があり、アナウンスもされていたはずです。高速道路ならともかく、一般道路をこれだけ長時間何の案内もなく走行するバスは、私にとっては非常に苦痛で、アナウンスが恋しくなりました。普通の乗客にとっては白川郷や金沢観光が目的ですから、これでいいのかもしれませんが。
 ということで、平瀬温泉をアナウンスもなく通過し、55分かけて白川郷のせせらぎ駐車場に到着しました。桜の郷荘川〜白川郷間は1430円ですが、乗継割引の適用で1230円になりました。

加越能バス・荻町合掌集落バス停
加越能バス・荻町合掌集落バス停 後に合掌造りの民家が見える


一般車乗り入れ規制が検討される「世界遺産」白川郷合掌集落

 白川郷バス停が、合掌集落から川向こうの「せせらぎ駐車場」内のままとなったのは、私にとっては少し残念でした。JRバスと同様、合掌集落内の道路に乗り入れてほしかったのですが、停車・転回場所が確保できず、道路も狭く観光客で混雑するといった問題が考えられます。
 合掌集落内の道路を運行する加越能バス五箇山線と停留所が別個になってしまったのも残念な点です。JRバスと加越能バスは荻町神社前〜鳩ヶ谷間で重複し、途中、荻町合掌集落・荻町バス停が同じ位置にありました(JRバスのみ荻町〜鳩ヶ谷間に「鳩ヶ谷神社前」がありました)ので、乗り継ぎに迷うことはありませんでした。しかし、加越能バスと白川郷特急バスとの間では共通停留所がなく、互いの停留所や接続時刻の案内も全く行われていませんので、乗り継ぎに戸惑う可能性が出てくると考えられます。
 濃飛バスとしては白川郷特急バスで来た観光客が加越能バスで高岡に抜けてしまうよりも、再び高山に戻るか、あるいは金沢線に乗ってくれた方がいいでしょうし、加越能バスから見ても同じことが言えますから、接続をとる必要を感じないのかもしれません。しかし、こういう発想こそが、自由に周遊コースを設定できる自家用車に対する競争力をそいできたのです。そもそも、金沢線が白川郷〜金沢間ノンストップなのに対し、加越能バスは五箇山合掌集落をカバーしていますので、白川郷特急バスと加越能バスを乗り継いで白川郷と五箇山の両方を訪ねるパターンも十分考えられます。
 金沢線が五箇山に停車するのが一案として考えられますが、この路線は濃飛バスと北陸鉄道との共同運行であり、加越能鉄道は参加していないので簡単には停まれないものと思われます。また、金沢線は現在でも五箇山インターから東海北陸道経由となっており、五箇山地区を通らない経路になっております。(2003年度からは、2002年11月16日に開通した東海北陸道白川郷〜五箇山間を新たに通行する予定です。)加越能バスが現在の荻町合掌集落経由荻町神社前行きをやめて濃飛バス白川郷バス停を終点とすることが最も現実的な解決策ですが(実際、2002年6月から2003年4月までの予定で、合掌集落内の道路が電線地中化工事で通行止めとなっており、それが実現している)、合掌集落内を路線バスが走らなくなるのもちょっと惜しい気がいたします。

 白川郷は、土曜の昼ということもあって、多数の観光客で賑わっていました。せせらぎ駐車場と荻町合掌集落との間を隔てる庄川を渡る歩行者専用橋「であい橋」は大混雑で、通り抜けるのに一苦労でした。「せせらぎ駐車場」にバス停を設け、自家用車や観光バスを誘導するのであれば、この狭さは問題です。
 合掌集落内を縦断する道路も、通常ならば乗用車や観光バスなどがひっきりなしに通るのですが、前述のように一部が車両通行止めとなっているため、通過車両は少なく、観光客は道路中央まで広がって歩いていました。
 交通量調査があちこちで行われているのが目に付きます。実は、我々が訪れた翌日がちょうど「一般車乗り入れ規制実験」の実施日であり、その影響を計測するための調査が行われていたのです。実験中は、集落から離れた駐車場からシャトルバスを出して対応することになり、シャトルバス乗り場看板も設置されていました。
 もし一般車乗り入れ規制が本格実施された場合、観光客そのものの減少や、土産購入客の客単価低下といった懸念はあるでしょう。しかし、11月16日には東海北陸道が五箇山から白川郷まで開通し、残る飛騨清見〜白川郷間の工事も進められています。東海北陸道が全通すれば、白川郷にはクルマがますます増えるでしょう。そうなれば合掌集落の景観や歩行の安全が損なわれ、観光地としての魅力を奪うことは明らかです。せっかく電線も地中化するわけですから、観光客の多い日だけで十分ですので、上高地や乗鞍に倣って一般車乗り入れ規制はぜひ実施してほしいと思います。その際には、シャトルバスへの乗り継ぎ抵抗を減らすべく、乗って楽しい車両を導入するなどの工夫が必要でしょう。

 合掌集落内のバス道路を、南の加越能バス転回場(終点の「荻町神社前」から少し歩いたところ)から北の荻町バス停まで歩いてみました。さすがに世界遺産だけのことはあって、合掌家屋が点在する風景は何度見ても壮観です。私は雪道が苦手なので冬に来たことはありません。バスで楽に来られれば、雪景色の中の合掌集落を楽しむことができるのですが。
 バイパスと合流するところにある荻町バス停に近づくと合掌集落は途切れますが、その手前に「白川郷の湯」と書かれた建物を見つけました。後で調べたところ、10月20日にオープンしたとのことです。合掌集落と日帰り温泉の組み合わせは面白いのですが、合掌集落の北入口交差点に近いため、渋滞に拍車をかけるようなことにならないかちょっと心配です。また、バスとリンクしていない点も気になります。白川郷特急バスもここまで来てはどうでしょうか。

(03/12/30追加)03/04/07改正より、白川郷発着便については鳩谷まで延長され、さらに03/07/01からは荻町にも停車するようになりました。

白川郷せせらぎ駐車場内で待機する加越能バス高岡駅前行き
白川郷せせらぎ駐車場内で待機する加越能バス高岡駅前行き


観光路線と生活路線の合わせ技 とにかく長い加越能バス五箇山線

 次に乗る加越能バス五箇山線の発車時刻は13:10、白川郷に着いてから1時間40分あります。以前のJR「特急白川郷」は名古屋駅8:20発で荻町合掌集落には12:23着でしたから、定時運行でも47分しか余裕がありませんでしたが、今回の乗り継ぎでは一通り合掌集落を回ることができ、食事もとることができました。

 道路工事のため、加越能バスは荻町神社前発でなく、せせらぎ駐車場からの発車です。この路線に乗ると、高岡駅前まで約78km、2時間半という長丁場です。岐阜バス八幡線の新岐阜〜郡上白鳥系統も長距離ですが約75kmであり、五箇山線の方が上回っています。ちなみに荘川八幡線も約58kmという長距離路線です。
 バスは、観光客数人と我々を乗せて発車しました。次の荻町バス停は白川村の中心地にあたり、2名乗車しました。車両は古い路線車で、今日乗った中ではダントツにボロかったのですが、城端駅前までの区間は最高に面白い路線でした。景色は白川郷以南とはうって変わってダイナミックです。橋が続いて岐阜県と富山県とを何度も行ったり来たりする飛越峡合掌ラインを抜けると五箇山地区に入り、菅沼の合掌集落が続きます。この付近ではフリー乗降も実施されており、実際に乗降客も存在しました。そして、五箇山トンネル前後の眺望は、路線バスではなかなか見られないすばらしいものだと思います。
 中でも面白いのは、景色に連動するかのように流れるテープのアナウンスです。停留所案内はもちろんのこと、沿線の観光案内や民話の紹介、地名の由来がほぼとぎれることなく流れます。とどめは民謡が何曲も流れることで、「では、○○節をお聞きください」というアナウンスの後に哀調を帯びた民謡を聞くと、面白いのを通り越して感動的ですらあります。このテープを聞くために乗車してもいいのではとさえ思えました。もしかすると逆方向は内容が異なるのかもしれませんので、そちらも気になるところです。観光客の旅情を誘うこと請け合いですが、この路線は荘川八幡線と同様、国庫補助で維持されている生活路線でもあります。よく利用する客にとってはうっとうしいだけかもしれません。
 一般客は、上平村・平村内で乗降を少しずつ繰り返し、車内は7,8人をキープしながら城端駅前に到着しました。たくさんのバス停を通りましたが、大部分は乗降がありません。平日だともう少し一般利用があるのかもしれません。

 城端駅前バス停は駅舎のすぐ前にあり、乗り継ぎは簡単です。乗客の大半が入れ替わり、10人程度となりました。実は、城端からはJR城端線に乗り継ごうとも思っていたのですが、いい列車がなかったため、そのままバスに乗り続けることにしました。実はこれは、観光客にとってはあまりよくない選択であることが後で分かりました。というのも、城端以北は散村の広がる平地をひたすら走る退屈な路線になってしまうからです。もちろんアナウンスも普通の路線バスと同じになってしまいます。高岡駅前から乗れば後半にヤマ場が来ていいのですが、逆コースは辛いものがあります。運転手さんが城端駅前で「ここからが長いよ」とおっしゃった意味がよく分かりました。
 バスは、城端・福光町境にある「南砺(なんと)中央病院」へ乗り入れます。いわゆる盲腸運行で、いったん病院に寄ってまた同じ道を戻るというものです。土曜ということで乗降はなく引き返します。通院が過疎地生活路線の生命線だということはよく理解しているのですが、この乗り入れによって観光客が興ざめしてしまうおそれはあります。以前、豊橋鉄道バス伊良湖本線が渥美病院発着になった時、帰りの観光客が「渥美病院」という方向幕を見てどう思うだろうと危惧したことを思い出しました。
 いやに新しい病院だと思ったのですが、後で調べたところ、実はこの病院がオープンしたのは10月1日で、診療は7日スタートとなっており、五箇山線の経路変更も1日に行われたばかりでした。したがって、通院客はまだ利用していなかったことになります。なお、このことに関する掲示は車内やバス停には全くありませんでした。これではせっかく乗り入れても無意味だということを強調しておかなければなりません。
 南砺中央病院は公立で、城端町・福光町・平村・上平村のほかに岐阜県白川村もお金を負担していることを運転手さんに教えていただきました。つまり、五箇山線は白川村方面から南砺中央病院への通院客を運ぶ役割も担うわけで、生活路線としては理にかなっています。しかし、荻町から1時間半もかかり、県も違うこの病院までどのくらい通院があるのかという疑問が浮かびます。運転手さんに聞いてみると、即座に「白川村からだと高山に出る方が遠い」という答えが返ってきました。確かに、白川郷〜高山間は特急バスでも1時間40分、片道2400円もかかり、その後さらに総合病院である高山赤十字病院や久美愛病院へはバスを乗り継ぐか歩くかしかありません。南砺中央病院ならば停留所は玄関前ですし、運賃も1700円で済みます。白川村が飛騨地域の市町村合併構想から早々に離脱したことに初めて納得がいきました。

 さて、楽しい観光路線からすっかり様変わりしたこの退屈な路線から逃げるルートがもう1つ用意されています。それは、福光で金沢行きの路線バスに乗り継ぐものです。その路線は西日本JRバス「名金線」で、まさに北に残った名金線の最後の砦となっています。
 乗り継ぎは福光駅前の1つ前の「福光東町」が便利です。なぜなら、JRバス福光駅バス停は駅前にあるのに対し、加越能バスは駅前に乗り入れておらず、停留所位置が異なっているからです。しかし、こんなことが初めて来た観光客に分かるはずがありません。また、接続ダイヤも自分で確認する必要があります。こういうことでは、路線バスがネットワークとして機能するはずがありません。
 我々が乗った便からは、ちょうどいいタイミングで金沢行きのバスに乗り継ぐことができます。実際、福光駅前の少し先で金沢駅行きとすれ違いました。ただし、その運行は西日本JRバスではなく、同一ルートを走る加越能バス(金沢線)です。JRバスは福光駅〜金沢駅の運行ですが、1日2往復の加越能バスは砺波市役所〜福光駅前〜金沢駅前という運行です。停留所看板はJRバスのものが使われ、加越能バスの時刻も合わせて掲出されていますが、回数券・定期券での共通乗車はできないそうです。加越能鉄道はその名の通り、加賀・越中・能登を鉄道で結ぶことを目指して設立された会社であり、富山〜高岡〜金沢間の路線建設を計画していたのですが、この金沢線はその名残なのかもしれません。いずれにせよ、富山・石川の県境を越える路線であり、今後の存続には不安が残ります。
 以前は、この福光を介して、金沢〜白川郷と乗り継ぐ需要が相当あったと思われます。もともとの名金線がそのルートであったからということもありますが、やはり大きいのは、金沢が高岡に比べて大きな都市であり、兼六園や近江町市場に代表される観光地を抱えているということです。そういう意味では、高岡は白川郷の入口としての魅力に欠けています。むしろ「小京都」と言われる城端の方がインパクトが強いかもしれません。
 しかし、この福光乗り継ぎは、濃飛・北鉄共同運行で白川郷から金沢へ特急バスが走る今、意義をなくしてしまったと言えます。調べなければ乗り継ぎ方法が分からず、時間もやたらとかかる一般バスと、いったん乗ればそのまま目的地に直行し車両も快適な特急バスとの差は歴然としています。個人的には前者の方が好きですが、これは残念ながら少数派でしかありません。ただ、もしお時間とご興味がおありでしたら、このような路線バス乗り継ぎの旅に(よく事前にお調べになった上で)ぜひ挑戦していただきたいと思います。「どこでもドア」や「空飛ぶじゅうたん」のような特急・高速バスと違って、ゆっくり流れる沿線風景からいろいろなことが得られるはずです。

 ともかく、その後もひたすら、JR城端線と並行しながら単調な砺波平野を走り続け、福野町・砺波市を経て高岡市内に入ります。道路は4車線となり、沿道にはロードサイド店が林立して、2時間前の白川郷の風景がどこかに飛んでいってしまいました。
 結局、2時間半以上を費やして高岡駅前に到着です。整理券番号は58番まで行き、表示盤がいっぱいになりました。運賃は2350円です。途中、運転手さんも砺波市役所前にある車庫で交代してしまいました。乗客は入れ替わりながら少しずつ減り、最後は数人となっていました。

 このような長大路線は、とかくさまざまな機能を盛り込もうとするがゆえに、歪みが生じる宿命にあります。城端以南については、白川郷・五箇山への観光輸送と、南砺中央病院への通院に代表される生活交通の両方を担当し、それなりの折り合いはついていましたが、城端以北との雰囲気の違いは歴然としており、バス好きでも2時間半の乗車はかなりきついものがあります。JR城端線との接続も、バスが並行して高岡駅前まで走るので不要とも言えますが、実際にもあまり考慮されていません。
 五箇山・白川郷観光のためには城端駅前始発としてJRと完全接続とするか、高岡から城端まで特急タイプとしてなるべく停車を少なくするのがいいでしょうが、生活交通を兼ねるのであれば南砺中央病院はカバーしなければなりません。もちろん、南砺中央病院へは北の福野・福光方面からも需要があるでしょうし、城端〜福野間の需要もあるため、南砺中央病院で運行を分けるわけにもいきません。多数の系統を設定できるほど需要があればいいのですが、それは望めません。結局、高岡駅前〜白川郷直通の1日4往復運行が現実的ということになってしまうのでしょう。とはいえ、観光シーズンの休日には、城端以北は停留所が少ない(当然、南砺中央病院も経由しない)特急バスがあってもいいかもしれません。その場合、高山〜白川郷〜金沢特急バスと合わせての売り込みが必要でしょうし、バス周遊きっぷの設定も面白いかもしれません。

 以前は、白川郷・五箇山をゆっくり楽しむことができるバス路線として、名鉄バス名金線「五箇山号」が名古屋〜金沢間直行で運行(夏季のみ)していました。しかし、このような一日ずっと走り続ける路線の存立は難しいのが現状です。したがって、複数の路線が1つのネットワークとして機能するように、初めて来た観光客でも心配なく各路線間を容易に乗り継ぐことのできる案内の整備とダイヤ・停留所・運賃システムの工夫を行うことが必要であると考えます。

荻町付近を走る加越能バス白川郷行き
荻町付近を走る加越能バス白川郷行き この方向幕は昔から個人的に気に入っている


「さくら道」に凝縮されるローカル路線の課題 継続的改善のための体制作りが必要

 さくら道をたどって、中心都市と地方を結ぶ高速バス、過疎地域の路線バス、観光地をピンポイントで結ぶ特急バス、そして観光・生活流動の両方を担う長距離路線バスを乗り継ぎながら、各路線の抱える課題や、路線同士の結節の方法に関する問題点を多数見ることができました。これらの路線を「名金線」という1本の系統で賄うのは、やはりムリがあるように感じました。
 問題点を修正し改善するにあたっては、すぐできることもあれば困難なこともあります。また、改善したからといって目に見える乗客増加が生じるというわけでもないでしょう。しかし明らかなのは、改善なしに立ち止まるという行為は公共交通網全体のメタボリズムを低め、存続を長期的に危うくするということです。事業者や行政、そして住民という相互の壁を取り払い、少しでも利便性が高く、生活に役に立ち、観光客を引き込んで地域の活性化に役立つ路線を自由かつ前向きに設定できるような体制が構築され、改善が進んでいくことを望みます。

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