加藤博和の「路線バスリサーチ」

番外編 江南市コミュニティ・タクシーに乗車して
 −果たして「いいことづくめの公共交通機関」になれるのか?−

First released: 02/01/07
Last updated: 03/07/23



 2002年1月5日8時30分に、愛知県江南市で「コミュニティ・タクシー『いこまいCAR』」 が試行運行を開始しました。このところ、コミュニティバスはさまざまな市町村で運行が 始まっていますので、いまさらニュースにはなりませんが、コミュニティ・タクシーは「全 国初」の試みということで、市役所での出発式には在名テレビ局6局や各新聞社が取材に 訪れるという注目ぶりでした。
 確かに、今回のコミュニティ・タクシーの試みは非常に意欲的なものであり、注目に値 することは間違いありません。しかし、単にマスコミで大々的に取り上げられたことと、 コミュニティ・タクシーが地域公共交通機関として有効に機能するかどうかとは全く関係 ないことです。その一通りの結論が出るのは、2003年3月末までの試行の後になります。 ただし、初日の状況を見るだけでも、いろいろな問題点は十分に分かってくるものです。
 しかしながら、テレビ報道を一通りチェックした限りでは、いずれもハンを押したように、出発 式の様子、第1便に乗り込んだ乗客へのインタビュー、街中を走るタクシー、停留所の絵 を流しながら、「主催者発表」の利点に関するコメントをかぶせるというものというもので す。(いろいろなニュースの中の1つに過ぎませんので、仕方のないことですが)。 いずれにせよ、これを見ているだけでは残念ながら、地域公共交通確保という観点から見たコミュニティ・タ クシーの評価は不可能です。しかし、これだけ報道された以上は、他の自治体でも同様のシステムの検討や 要望が出てくることは確実だと予想されますので、早期にある程度の評価をしておくことも意味のあることと思われます。

 ということで、「現場第一主義」を旨とする私は、華やかな出発式を見た後、マスコミも式の参加 者も市職員もモノの見事にいなくなった江南市役所南玄関から、コミュニティ・タクシー の全線乗車に出かけることにしました。雪が降る悪状況でしたが、午後2時には全線を完 乗することができました。合計14回の乗車、料金は1,400円です。1日に14回もタクシ ーに乗車するのはこれが最初で最後だと思います。
※(02/01/28追加)後で知ったことですが、5日の利用は延べ78人、6日の利用は40人だったそうです。5日のうち、私および同行した路線図コム様で合計28回乗車(合計の1/3以上!)しましたので、統計をかなりねじ曲げてしまったことになります。

 ここでは、「路線バスリサーチ」番外編として、第1日目というまだ混乱した状況の中で はありましたが、実際に乗車してみた結果分かってきたコミュニティ・タクシーの問題点 とその改善策に関して、率直にまとめてみます。 コミュニティ・タクシーは乗合タクシーであってバスではないですが、類似の形態ということでここで扱うことをご了解願います。
 内容は主に否定的な見解になりますが、そもそも、新しいシステムには不備はつきものであって、コミュニティ・タクシーとい う意欲的な試みそのものを否定するものではないことにご留意ください。 隣のまちのマネのようなコミュニティバスを運行しているところに比べれば、このような新しい試みにチャレンジするということは、それだけで大いに賞賛されるべきものです。 この文章が、今後の本システムの改善や、他都市で の類似システム導入検討における参考となることを願ってやみません。



このページを公開後の新しい動きに関しては、こちらをご覧ください。これ以降、既に内容が古くなっている箇所がありますので、ご注意ください。

江南市コミュニティタクシーの公式ページは、こちらをご参照ください。



コミュニティ・タクシー発車式最中の江南市役所南玄関
発車式最中の江南市役所南玄関
この種のネタでは異例とも言える多数の報道陣がタクシーを囲む



コミュニティ・タクシー発車式終了1時間後の江南市役所南玄関
発車式終了1時間後の江南市役所南玄関
タクシーだらけであるが乗客は皆無
マスコミはもちろん、滑り出しの状況を見たり案内・誘導を行うべき市職員さえもいない



「空車タクシー利用」というと聞こえはいいが・・・

 まず、江南市コミュニティ・タクシーについて簡単に説明します。

 江南市でもご多分に漏れず、民間路線バスの廃止による公共交通不便地域の拡大が進み、 コミュニティバスのような新しい公共交通機関の確保が課題となっていました。その時、 市内でタクシーを運行する「名鉄西部交通」との議論の中で、「空車で走っているタクシー を乗合の公共交通機関として活用すれば一挙両得」というアイデアが生まれ、これを具体 化したのがコミュニティ・タクシーというわけです。

 空車タクシーの活用ですから、日・祝日も含めて毎日運行であり、料金は1乗車100円 (小学生以上)と、タクシーとしては格安です。1回乗車ごとにもらえる「利用済券」を 20枚貯めて市内の公共施設に持っていくと「花の種」と交換してくれるという面白い特典 もあります(私もあと6枚で交換できます)。
 コースは8つあり、うち市役所を起点から市民体育会館・布袋支所・県営松竹住宅に行 くコースと市民体育会館〜すいとぴあ江南のコースが幹線コース、市役所〜古知野東公民 館、市民体育会館〜中般若会館、布袋支所〜曽本会館、県営松竹住宅〜養護老人ホームの4 コースが支線コースとされています。コミュニティバスになぜかつきものの循環ルートで はなく、市役所から放射状に路線が延びています。ただし、江南駅や布袋駅には乗り入れていません。 所要時間はいずれも6〜9分と短いです が、結節点で乗り継ぐことで広域移動も可能です(運賃割引はなし)。支線は8月以降にル ート変更されることが予告されています。

 そして、このコミュニティ・タクシーの最もすごいのは、幹線・支線いずれのコースも 「30分ヘッド」という、東海地方のコミュニティバスでは考えられない高密度ダイヤが設定 ていることです。これは、空車タクシー利用だからこそなせる業であると言えます。た くさんのタクシーが市内の各地を空車で走っているとすれば、その一部をコミュニティ・ タクシーに充当するだけで、これだけの運行が実現してしまうというわけです。
 この説明だけ聞けば、バスで走るほど需要が見込めない地域で高密度の公共交通サービス を提供するために、このシステムは理想的だと思えてきます。

 しかし、そもそも冷静に考えてみれば、このような高密度の運行が、空車タクシーの活 用だけでできるのでしょうか? 言うまでもなく、できるはずはありません。8コース各 30分ヘッドの運行ということは、30分間で16便、1日では272便という膨大な数のダイ ヤを「確実に」こなす必要があります。
 本当に空車タクシーだけでこれだけの運行をまかなえるかどうかを分析するために十分 なデータを私は持ち合わせていませんし、タクシー需要は時間的・空間的変動が大きいた め、机上のシミュレーションをするのも大変です。いずれにせよ、今後の運行によってそ れが本当に可能かどうか明らかにされていくでしょうし、それがこの試行運行の大きな目 的と言えるかもしれません。
 ただし、私が初日の運行状況やタクシー無線の会話から判断する限りでは、コミュニテ ィ・タクシー運行ダイヤの確保は空車活用などという生やさしいレベルでは収まらないと 思われます。

 バスの場合、回送運行をなくすため一般に折り返しダイヤをとりますが、コミュニティ・ タクシーは回送タクシーの活用が基本ですから、あくまでもその運行はスポット的なもの であり、終点に着くと一般タクシーに戻ってどこかに行ってしまいます。一方、配車係は、 市内を走り回るタクシーの中から、コミュニティ・タクシーのダイヤにうまくはまる回送 車を新たに割り付けなければなりません。単純に考えると、今終点まで来たタクシーが最 も適当であると思われます。しかし、コミュニティ・タクシー運行によって運転手が得ら れる手当が低額であるため、配車にあたって各タクシーにできるだけ均等にコミュニテ ィ・タクシーのダイヤを担当してもらう方針があり、折り返し運行は曽本会館コース・老 人ホームコースを除いては行われません。
 したがって、特に支線コースの終点発で、もともとタクシーがあまり行っていないとこ ろでは、空車の活用どころか強制的に配車せざるを得なくなります。これを裏付けるよう に、無線からは「中般若」「布袋」という配車係の言葉が何度も聞こえていました。曽本会 館と老人ホームが折り返し運行なのは、この地区にほとんどタクシーが回らないためと想 像されます。
 また、いずれのコースも所要時間が6〜9分という短時間に設定されている理由も、100 円という格安料金に見合う距離であることや、一般のタクシーの「ドア・トゥ・ドア」の 利点との格差を付けるという狙いとともに、空車タクシーのスポット利用がしやすいよう に配慮していることが想像されます。逆に言えば、「空車活用」ということに路線形態まで が縛られているのです。

 初日の乗車では、運転手が持っていたダイヤと配布・掲出ダイヤとの食い違いも見つけ ましたし、県営松竹住宅で40分待っても(本来はこの間に着・発便が最低2便づつ来なけ ればいけないはずなのに)1台もタクシーが来ず、近くの道路を3台も空車タクシーが通過 していったということも体験しました。
 新システムの初日でしたし、ましてや雪が降ったためタクシー需要が増加したことも重 なりましたので、この程度の混乱が生じたのは当然です。また、リハーサルも十分には行 われていなかったようです。しかし、むしろ気になったのはマネジメントではなくキャパ シティの問題、すなわち、タクシー需要が多い平日、しかも雨や雪になったとき、配車シ ステムのオーバーフローや、迎車タクシーの不足といった致命的事態が起こらないかとい うことです。運転手は異口同音に「今日はまだまし、7日が怖い」と語っていました。7日 は月曜日、初めての平日です。いったいどうなるのでしょうか?

※各路線の終点の様子(写真)は、こちらでご覧になれます

「現場のヤル気を出す仕掛け」になっていないのも気になる点

 江南市には他のタクシー会社も存在するわけですから、需要の高い時間にコミュニテ ィ・タクシーの運行に車を割かれ、本業である迎車や駅・病院等への待機に車を回せなく なれば、すかさず顧客は他社に流れてしまいます。
 このことによって心配されるのは、タクシー運転手の士気低下です。バスが典型的な例 ですが、運転手の士気が低いということは、回り回って大きなダメージとなります。現場 をヤル気にさせない試みはいい結果にはつながりません。今回、10人を超える運転手と話 ができましたが、せっかくの全国初の試みに参加しているにもかかわらず、あまり前向き な話が出てこなかったのが残念でなりません。

 タクシー運転手は能力給であるため、乗客を見つけることに対する執着心が強く、これ が業界の活力をも生む仕掛けになっていることは自明です。この仕掛けがコミュニティ・ タクシー運行によって阻害されるとすれば大きなマイナスとなります。運転手にとって、 低額の手当しか出ず、客が乗っても乗らなくても手当が変わらないコミュニティ・タクシ ーはおいしい仕事であるとは言えません。空車状態が多い場合はいいのですが、そうでな い場合にはなるべく避けたい仕事であることは想像に難くありません。加えて、空車が少 ない場合には、一度コミュニティ・タクシーに配車されるとなかなかそこから抜けられな くなり、運転手間の不公平が生じる可能性が高くなるという問題もあります。
 以上のように(もともと自明ではありますが)、コミュニティ・タクシーのシステムは、 空車タクシーが十分に存在しているという条件でのみ成立するシステムであり、そうでな ければ非常に難しい局面が生じるおそれが高いと考えます。

 では、なぜ「空車活用」ということにこだわる必要があるのでしょうか? それは、も ともと走っている空車を活用すれば、事業者にとっては有効活用となり、自治体としても 支出が安く抑えられ、利用者も低額負担で高サービスを得られるという「三方一両得」の ビジネスモデルが、このシステムの最大の売りになっているからです。特に自治体にとって 、経費節減は魅力的でしょう。 しかし、再三記しているように、これはあくまで空車が十分に存在する条件下でのみ成立するモデルでしかありません。
 「空車活用」という前提が崩れた場合、ダイヤを減便するか、タクシーを増車するかし か手がありません。増車はダイレクトにコスト増に跳ね返ります。すなわち、自治体にとっての最大のメリットが損なわれることになるわけです。
 しかし、私から見れば、空車タクシー活用という、利用者の利便性から見れば何の意味のない「お題目」を掲げる 必要はないと考えます。むしろ、これに目を付けた他の自治体が、同様のシステムを拙速 に導入してドツボにはまらないかが心配です。

いくら30分ヘッドでも定時性が全くなくては無意味

 ここまでは、空車タクシーの活用という観点に関する疑問から始まって、運行方式が危 なっかしいものであるという指摘を中心に進めてきました。ここからは、利用者の観点か ら見たこのシステムの利点と欠点について分析します。

 乗合タクシー形式で一般に懸念されるのは、定員が5人しかないため、満車になる可能 性がコミュニティバスに比べ極めて高いということです。しかしこれは、タクシーを利用 する以上は最初から分かりきっていることですし、こういう問題が出てくるということは それだけよく利用されている証拠ですから、「非常に高級な悩み」だと言えます。 なお、私が14回乗車したうちで、他の客と乗り合わせたのはわずか2回(同じ客)、他の行先に向かう客を見たのも1回のみでした。

(02/01/28追加)
※1月現在では、平均乗車密度は0.3人程度で、当初見込みの0.7人を下回っているとのことです。

(02/11/11追加)
※その後も利用状況はほとんど変化がないということです。なお、利用者の多くは体育館・すいとぴあ・松竹住宅の3コースに集中する傾向も見られます。


 路線長が短いことは既に指摘しましたが、その時問題になるのは、必然的に発生する乗 り継ぎへの対応です。具体的には、「乗り継ぎ点の整備」「乗り継ぎダイヤ」「運賃」の3点 が重要になります。このうち運賃には乗り継ぎ割引はありませんが、1乗車100円という低 運賃ですので問題にはありません。しかし、他の2点は大きな問題があります。
 まず乗り継ぎ点ですが、市役所こそ南玄関前という好位置にあるものの、市民体育会 館は駐車場内、布袋支所は路上、県営松竹住宅は団地南側の空き地であり、ベンチがある のは布袋支所のみ、雨・雪がしのげる場所も市民体育会館は駐輪場、県営松竹住宅は南側 の民家の軒ということで、待つのは非常に苦痛でした。 市役所とて土曜日ということで玄関の扉は施錠され、ひっきりなしにタクシーがやってくる以外は寂しい状態でした。 初日の混乱に対応して職員が待機しているのかと思ったのですがそれも早々に引き上げてしまい、拍子抜けしました。
 次に乗り継ぎダイヤですが、いずれも30分ヘッドで所要時間が6〜9分ということで、 乗り継ぎが生じやすいコース同士を00・30分発と15・45分発で組ませれば、簡単に接続 ダイヤをつくることができます。ところが、布袋支所コースと曽本会館コースは全く接続 せず、体育館コースから中般若コースへの乗り継ぎも接続していません。しかも、後でも 詳しく説明しますが、定時性が全くない状態でしたので、このようなダイヤ設定そのもの が無意味でしたし、結節点ではいつお目当ての便が来るのか油断できない状態でした。
 タクシーの外観だけでは行先も、そもそもこれから運行に入るのか回送するのかも分か りませんので、いちいち運転手に尋ねなければなりません。一応、助手席のサンバイザー を下ろし「いこまいCAR」という赤色の表示が出ている時は乗合タクシーとして運行して いることを表しているのですが、視認性ははっきり言ってよくありません。ただでさえタ クシーはバスに比べて目立ちませんから、一応、コミュニティ・タクシーは途中停留所で 徐行または停止するものの、途中停留所からの乗車は特に苦労するでしょう。コミュニテ ィ・タクシーでない一般タクシーが通過してしまうとかなり焦ってしまいそうですし、逆 にコミュニティ・タクシーと間違えて一般タクシーを停めてしまうということも起こるか もしれません。

 コミュニティ・タクシーの定時性確保が難しい原因としては、設定ダイヤに都合のいい 空車がそう簡単には出てこないため配車が難しいこともありますが、それとともにタクシ ー運転手の性格も大きいということが分かりました。すなわち、発車時間より前に出てし まう傾向が生じるのです。タクシーではダイヤはないため、乗客は少しでも早く目的地に 着いてほしいと考えますし、運転手としても、客がいるいないにかかわらず少しでも早く 着いて次の客を拾いたいと考えるのは当然のことです。これは、乗り残しが生じるため早 発を極端に嫌い、逆に渋滞等による遅延が問題となる路線バスとは全く逆の傾向です。
 一日中コミュニティ・タクシーの運行をすることになっていればこのようなことは起こ らないのですが、前述のように、空車タクシー利用を前提とするコミュニティ・タクシー はスポット的な仕事ですので、早発・早着の傾向が強くなることになります。悪いことに、 この傾向は空車が少ない(つまり、一般タクシー需要が多い)ときには更に強まるでしょ う。それを見越してか、パンフレットにも「早めにお待ちいただくことをお勧めします」 と書かれています。今後、早発に対する苦情が出ることによって、運転手に対するダイヤ 遵守の指導が強まることが予想されますが、運転手にとっては酷な話です。あまりこれを やりすぎると、コミュニティ・タクシーに車が回らなくなってしまうかもしれません。

 乗り継ぎ点の整備もほとんど行われていませんので、途中停留所の整備は何もなく、単 に停留所標示があるだけです。停留所もタクシーのサンバイザーの表示と同様に赤色です が、街では意外と赤は目立ちません。しかも、多くは電柱に張り付けてあり、しかも歩道 がある場合には歩道から見えるように張ってあるため、乗車中のタクシーから見つけるの は至難の業です。実際、多くの運転手が停留所確認に苦労していましたし、私も停留所を 見つけるのは人一倍得意なのですが、今回の見つけにくさは、今までで最も苦労した「高 岡ふれあいバス」の立看板以上でした。
 「停留所は利用客が待つところだから、車から見つけにくくても関係ない」というのは 素人考えです。これでは、市内の移動者の大半を占める自動車利用者にアピールせず、「一 度試しに使ってみよう」という動機につながっていきません。また、タクシー運転手にとっても、 停留所が確認しづらいというのは大きな負担です。コミュニティバスと異なり、一般のタ クシーと見分けがつきにくい上に、停留所位置が分からないとなると、途中停での乗客を 拾いそこなう原因となります。これが理由かどうかわかりませんが、当初は停留所が車か ら視認しづらかった碧南市「くるくるバス」も、後に視認しやすいように改善されていま す。ましてや、担当運転手が大方決まっているコミュニティバスと違い、コミュニティ・ タクシーでは、江南市内の名鉄西部交通の運転手はだれでも担当する可能性があり、しか も8コースもあります。これはかなり大変なことです。

 コースが幹線と支線に分けられている理由も、支線は8月に見直しがあるということ以 外不明です。どちらも30分ヘッドですし、市役所から出る支線(東公民館コース)もあれ ば市役所から出ない幹線(すいとぴあコース)もあります。
 また、停留所で通過時刻が表示されていないのも問題だと考えます。乗り継ぎ点ではい ずれも、配布パンフレットと同じ全線の路線図と時刻表が掲示されていますが、この停留 所でどれに乗れるのかが全く分かりません。どれとどれが乗り継げるのかもよく見ないと 分からないのです。途中停留所でも始発停の発車時刻しか書かれておらず、いつ来るのか は考えないと分かりません(定時性がないことを見越して停留所通過時刻を出していない のかもしれませんが)。


(02/11/11追加)
※02/05/16から、停留所に専用の標識が設置されました。運行に関する見直しの一環ということで、評価に値します。
※02/08/01から、支線コースはすべて新しいコースに切り替えられました。その際、ダイヤは幹線コースとの接続に配慮され、一部では幹線コースと事実上直行する形になっています。


コミュニティ・タクシーの停留所標示
コミュニティ・タクシーの運行開始当初の停留所標示(布袋支所にて)
安上がりではあるが、広告等と見まがう上に、道路と平行方向に取り付けてあると車から視認するのは困難
現在は一般の停留所看板に取り替えられた


「空車タクシー活用」よりも「タクシー利用」のメリットこそ強調されるべき

 結論から言えば、利用者から見たコミュニティ・タクシーは、ツボにはまれば非常に使 いでのある交通機関であるが、さもなくばあまり便利とは言えないという印象を持ちまし た。その原因の多くは「空車活用」という前提にこだわっているためということは、ここ までで十分に説明してきました。
 むしろ強調されるべきは、タクシーだからこそ提供できるメリットの方です。例えば、
・タクシー会社さえあればすぐに始められること
・バスでは走行困難なルートを選択できること
・停留所施設を設けなくてもよく、転回場も小さくて済むこと
・乗客が少ない路線でもムダがなく、バスに比べて割安な輸送サービスが提供できること
・ダイヤや路線が固定ということでは一般のタクシーにかなわないが、車内アメニティはタクシーと同等であること
・一般にタクシー運転手の接客はバス運転手よりレベルが高く、運転手との会話も楽しめること
など、タクシー利用のメリットは数知れません。むしろ私は、これらのことこそ強調されるべきだと考えています。

 改善を考える際に特に重要な要素は「定時性確保」です。コースが短く、特に 支線コースからの利用の多くは幹線への乗り継ぎを要すること、途中停留所が視認しづら く、逆に乗客からタクシーが視認しづらいため乗り残しが生じやすいことを考えると、定 時性がないと怖くて使えません。30分ヘッドのダイヤですので、最高30分待っていれば来 てくれるという点が救い(もしかすると定時性がないことを見越した30分ヘッドなのかも) ですが、前述のように、空車タクシーが不足した場合1本運行が飛ばされてそれ以上待た なければならない可能性は否定できないのです。

 以上の分析の結果、具体的な改善の方向としては、
・配車のオーバーフロー防止や定時性確保の観点から、現状では30分ヘッドはムリがある。少なく とも支線は1時間ヘッドに改める一方、定時性の遵守を徹底する。
・結節点では完全接続ダイヤとする。
・特に支線は折り返し運行を基本とする。空車利用にこだわるべきではない。その代わり、 終点では2分程度の待ち時間ですぐに折り返す形とし、運転手にムダな時間をとらせない。
・利用客からコミュニティ・タクシーの行き先がはっきり分かるような工夫が必要である。
・停留所看板の設置を、利用者からも車からももっと分かりやすくする。
が考えられます。

「運行開始が本当の始まり」 コミュニティ・タクシーの真価が問われるのはこれから

 最後に、全国の自治体公共交通担当者の方にぜひ肝に銘じていただきたいのは、運行開 始は「終わり」ではなく「始まり」であるということです。地域公共交通機関に関するセ オリーというものが存在しない以上、事前の検討をいくらやったとしても、実際に運行開 始してから得られる有用な知見は膨大です。その一方、試行や実験であるから、単に知見 を得られればいいというわけではないというのも公共交通の難しいところです。一種の客 商売ですから、一度「不便だ」と思えばその乗客は次から乗るのを避けるようになります し、その噂は地域にどんどん広まっていくのです。したがって、試行・実験段階でも、あ る程度は成功しないといけないという宿命があります。

 そのために必要なのはただ一つ、「迅速な改善」しかありません。システムを常にチェッ クし、明らかな不備が判明すればすぐに修正する体制を作ることこそが最も大切です。一 方、最もやってはいけないのは、現場や利用者へのしわ寄せです。それに比べれば「空 車タクシー活用」というお題目は何の意味もありません。タクシーの、小回りが利く、小 需要に向くという特性の発揮こそ重要なのです。

 前述のように、江南市コミュニティ・タクシーは、7月末までは現在のまま運行し、8月 から支線コースを変更する予定になっています。しかし、これにこだわらない改善の実施 が必至だと思われます。
 コミュニティ・タクシーという形態の新しさに目を奪われる時はもう終わりました。数々 の問題点が明らかになった段階で、すぐに新しい段階に進まなければなりません。よりよい公 共交通機関を生み出す秘訣は、利用者の立場に立った「迅速な改善」にあります。これは 一般の製品やサービスでは当たり前のことです。これができなかったために、今までの公 共交通機関の多くは負け組になってしまったのです。そういう観点から、私は今後もこの コミュニティ・タクシーに注目していこうと考えております。


(03/07/23追加)
 江南市コミュニティタクシーの試行運行期間は03/03/31までとなっていましたが、03/04/01以降も試行運行が継続されました。 合わせて、それまでの結果を踏まえてさまざまな見直しが行われておりますので、ここで紹介しておきます。

1.路線長が短く乗り継ぎが面倒という点を改善するために、市内を南北に貫く「すいとぴあコース」「体育館コース」「布袋ふれあい会館コース」を直行運行とし「すいとぴあ・布袋ふれあい会館コース」とした。ただし、料金は旧コース区間内ごとに100円とした(全区間乗車は300円となる)。
2.支線コースに関しては、利用の多かったコースを中心に再編成を行った。
3.幹線コースは30分ヘッドを続けるが、支線コースは1時間ヘッドとした。
4.幹線・支線間の乗り継ぎダイヤに最大限配慮した。
5.満車(5人乗車)の場合、運転手の手配により臨時便を運行することとした。

 1は、料金は変わらないものの、乗り継ぎの手間が省けるとともに所要時間も短縮される点で、利便性が大幅に向上するものと言えます。また、市内の二大病院である愛北病院・昭和病院や、市役所・市民体育会館・すいとぴあ江南といった主要施設を結び、市の基幹公共交通路線としての体裁を整えるものとなりました。路線バスや一般タクシーへの配慮からか、江南駅ロータリーに乗り入れられなかったのは残念ですが、駅ロータリー正面にはコミュニティタクシーを案内する看板が設置されました。なお、布袋ふれあい会館は布袋駅前にあります。
 2・3は、利用状況を見れば妥当な設定と言えるでしょう。利用が多かった「体育館」「布袋ふれあい会館」「松竹住宅」に比べ、支線はどうみても輸送過剰でした。一方、幹線コースは30分ヘッドを維持しておくことが必要と考えられます。
 4は当然のこととはいえますが、従来は「空車タクシー活用」という前提から、必ずしもそのようなダイヤを設定することができない事情がありました。今回の改正から、コミュニティタクシー運行を原則として担当車を決めて配車する形に完全移行したため、利用者の立場に立ったダイヤとなりました。また、本論でも示した通り、運転手や運行会社にとってもメリットのある方法であると言えます。
 5は、1便あたり0.4人程度の利用状況では心配ないと思われるかもしれませんが、利用の多い幹線コースでは満車となることがたまにありました。臨時便運行はタクシー事業者への委託によって可能となるものであり、フレキシブルな方法であると言えます。

 以上、必ずしも十分でない点は残るものの、改善が行われたことによって、4月以降の利用状況は増加傾向にあります。幹線の利用が増加するとともに、減便となった支線についても減少は見られないようです。1便あたり乗車人数は5月で0.6人程度に上昇しています。
 今後も地道な改善や普及を続け、江南市の公共交通機関として定着することを目指してほしいと思います。

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