加藤博和の「路線バスリサーチ」

第3回(追加) 岐阜市内バス再編問題 その後

First released: 02/12/24
Last updated: 03/01/31



 「路線バスリサーチ」で岐阜市内バス再編問題を取り上げた後に、これに絡むさまざまな新しい重要な動きが顕在化してきました。いずれも予想どおりのできごとと考えておりますが、状況が相当変化していることから、それらを踏まえて岐阜市内の公共交通問題を再度考え直すことが必要であると言えます。そこで、新たな動きについて紹介するとともに、それにどのように対応していくべきかについて考察してみます。


※このページを公開後、岐阜の公共交通に関わる新たな動きが生じておりますので、それを踏まえて、05/08/20に追加記事を公開いたしました。

※以下、内容が古くなっている箇所がありますので、ご注意ください。



1.バス事業一元化の方向が明確化

 本論では、岐阜市内の路線バス網の錯綜を打開するために、3事業者の統合の必要性を強調いたしました。それから1年半たって、その動きは急速に進みつつあります。
 まず、岐阜市営バスの全路線が岐阜バスに譲渡されることが本決まりとなりました。2002年2月に岐阜市長が交代し<03/01/31修正>、新市長の要請を受けて市営バス事業の見直しを検討する「公営企業経営審議会」が開かれ、1ヶ月ほどの審議の結果「民間へ全面移譲すべき」という結論が出ました。 6月議会でこの方針が説明され、9月議会で市営バス事業の廃止が正式に決定されました。並行して、移譲先の事業者の選定作業が進められ、募集要項は岐阜・愛知・三重の数事業者が受け取りましたが、実際に応募したのは岐阜バスのみで、審査の結果そのまま岐阜バスが選ばれました。2003年度からの3年間で3段階に分けて移譲されます。
 一方、名鉄バスに関しても、スケジュールが明確に示されているわけではありませんが、岐阜バスへの一元化に向かっているようです。2002年11月1日には、名鉄バスおよび並行する岐阜バス茜部三田洞線・聖徳学園大線・岐垣線が同時にダイヤ改正され、名鉄バスで減便が行われています。

 このように、近い将来、岐阜市内の路線バス(のみならず市内公共交通全般)は岐阜バスに一本化されることになりそうですが、これによってますます重要となるのが、公共交通政策をめぐる岐阜市と岐阜バスとの間の、信頼関係と冷静な問題認識に基づいた協力および連携です。これがなければ、3者統合のメリットが減ってしまい、逆に私企業による独占の弊害が懸念されることになってしまいます。また、市議会におけるやりとりにも散見されますが、岐阜バスに対する市民の信頼も万全とはいえない状況であることから、市民・利用者に支持される公共交通事業者として岐阜バスがレベルアップしていくことが必要です。

 さて、岐阜市営バスの岐阜バスへの移譲プロセスにおいて、1つの大きな問題が残されました。それは、「移譲された路線のダイヤは原則として3年間は変更しない」という条件がつけられていることです。これは非常におかしな条件であると言えます。なぜなら、岐阜市はバス路線網再編計画を検討しており、それを実現しようとすれば市営バスの路線も再編を余儀なくされますし、むしろ路線の利用状況や言い出した者の責任としては、民営事業者より先に実施するべきだとも言えましょう。 にもかかわらず、前述の条件は、この再編が2008年3月まで完全実施できないことを規定するものであり、大きな矛盾をはらんでいます。
 なぜこのような条件が設けられたかは明らかで、市営バスがなくなることによってバス路線・ダイヤが削減されるのではないかという沿線住民の不安を回避し、民営への移譲をスムーズに行うためです。(実はこれは全くのウソで、市営のままだと赤字がかさんで廃止になってしまうので、存続のために民営に移管するのですが、「公営だと安心」という従来の意識はなかなか抜けきらないものです。)とはいえ、バス路線の錯綜が根本的な問題であるにもかかわらず、3年間ものモラトリアムはいかにも長すぎます。一方で、旧市営バスの路線・ダイヤを維持しつつ、並行する岐阜バス従来路線を減便することも起こりかねません。

 他の多くの公営交通民営化問題ともに共通しますが、岐阜の市営バス民間移譲も、あくまでも市営バスの経営問題が動機となっており、公共交通網再編を意図したものではないことに注意が必要です。しかし、民営に移管されることによって運行コストが大きく削減され、赤字は確実に縮小し、路線も維持されやすくなることから、結果的に公共交通網見直しの機運がしぼんでしまうということがまま起こります。市営バスの民営移管を実施した、ある市の公共交通担当者様は、「市営バス民営化で当面の問題がなくなったため、私の仕事もなくなってしまった」と嘆いておられました。 しかし、公共交通網の問題は単に経営面だけでなく、自動車に対抗しうる利便性が確保できるかどうかという、より高い次元で考えていかなければならないはずです。

 先日、函館に行き、市営バスが民営に移管された状況を見てまいりました。2001年4月・2002年4月の2段階で路線が函館市交通局から函館バスに移管され、残る1系統も2003年4月に移管される予定です。しかしながら、現在のところ、停留所は旧市営と函館バスの2本がそのままで、停留所名が異なるところも存在し、バスの塗色も昔のまま、無駄と思われる重複系統も散見され、極めつけは駅前の案内所で別々の路線図を出してくるといった次第で、互いの路線網がうまく統合されるという状況には至っておりません。 時間のかかる作業だとは思いますが、岐阜の場合も、このような状況が長く続かないようにしていただきたいと思います。


2.名鉄が岐阜周辺600V線区全線廃止意向を表明

 名鉄は岐阜市とその周辺に600V鉄軌道網を持っていますが、年間で10数億円という巨額の赤字を出しており、名鉄本体の経営も芳しくないことから、全面廃止となるのは時間の問題だと考えておりました。中でも特に厳しい状況であった揖斐線の黒野〜本揖斐間と谷汲線全線は、先行して2001年9月末をもって廃止され、代替バスに移行しましたし、同時に美濃町線でも日中減便が実施され、これを補うために並行する岐阜バスとの共通乗車制度ができました。 そして2002年11月には、岐阜市内線・揖斐線・美濃町線の全線廃止意向が出てきたというわけです。(03/01/24発表の「名鉄グループ新中期経営計画」において、04年度をメドとした廃止意向が正式に表明されました。<03/01/28修正>

 いずれの線区も乗客数の落ち込みが大きく、輸送密度は名鉄としての損益分岐点を大きく割り込んでおり、好転の見込みもありません。施設の劣化も著しくなっています。このような状況を冷静に見れば、廃止の話が出てくるのは当然の帰結と言えます。では、これに対して沿線自治体の対応が適切に行われてきたかといえば、全くお粗末な状況です。揖斐線の場合、終点の黒野で接続する廃止代替バスの利便性が低く、それまで岐阜方面に流れ込んでいた乗客が大幅に逸走してしまいました。パークアンドライド等による集客施策もまだ進んでいません。 また、岐阜市内線は相も変わらず、これが本当にまともな公共交通かと言えるような悲惨な運行環境にあります。「軌道敷内自動車進入可」では、速度が出ないだけでなく運行が大変危険です(私も乗車中追突事故に遭遇したことがありますが、電車の運転手がかわいそうです)。停留所に安全地帯も整備されておらず、乗降は命がけです。

 もし、これら600V区間を存続させ、公共交通網の一部として有効に機能させようとするのなら、自明ではありますが、以下の施策が絶対に必要です。

・徹底的に改良し高速化を図る:現在のようにクルマやバスに次々に抜かれ、単線区間では行き違い待ちも長く、乗り心地も悪い状況では廃止は必然。線路を徹底的に改良し、速度・乗り心地を飛躍的に高めることが必須。「軌道敷内からの自動車の排除(センターリザベーション)」「電車優先信号(PTPS)」の導入も当然。

・各自治体の公共交通計画に明確に位置付ける:例えば岐阜市のように、「バス路線再編計画」において市内軌道線の役割が明確に位置付けられていない(極端な場合、路線が記入されていない区間さえ存在)ことや、1967年の市議会による「路面電車廃止決議」が今でも有効という状況ではレベルが低すぎて全く話にならない。

・制度面・資金面での支援体制を確立する:「名鉄が今まで努力してこなかったから」と責任をなすりつけるのは簡単であるが、路面電車が抱えるさまざまな課題を私企業だけで解決するのは制度上も資金上も不可能。「路面電車維持は街にとって絶対に必要」という確固たる意志の下に、運営事業者、行政、住民、NPOなどによる実質的な支援体制を確立する必要がある。

 これらを企画・実施するためには、少なくとも数十億円単位のお金がかかると思われます。「ヨーロッパではLRTがトレンドであり、岐阜で路面電車を廃止するのは時代に逆行している」という認識は間違いではありませんが、岐阜の路面電車をヨーロッパのLRT並みにしようとすれば莫大なお金がかかるという現実を直視すべきです。また、「せっかく走っているのに廃止はもったいない」という意見もよく耳にしますが、いずれの線区も改良には新設ほどではなくとも、それに近い額の投資が必要であることから、財務的には「もったいない」という議論はあたりません。

 この件に関しましては関係者の皆様ともいろいろ議論させていただく機会がございましたが、現在のところ私としては、(詳細な分析はここでは述べませんが、)岐阜市内線を含めた600V区間は全面廃止とし、市内の公共交通体系をバスに一本化することが適当であると考えています(よく勘違いされるのですが、「バス好き」だからバス一本化に賛成しているのではありませんので、念のため)。具体的には、「バス路線再編計画」に挙がっている幹線8路線については基幹バスシステムのような方法を導入して徹底的に強化し、LRT並みの利便性とともに一般バスの決定的弱点であるシンボル性をある程度確保することが必要です。 一方、拡散してしまった周辺部へは主な地区に幹線からの直行便で利便性を確保するとともに、フィーダー交通との乗り継ぎやパークアンドバスライドが可能な結節点を幹線末端部に整備するといった方策も合わせて行う必要があります。これらの方策を実施するにあたって「オムニバスタウン」指定が非常に有効となります。

 もちろん、上記のように、軌道網を根本的な改善を図った上で存続させ、公共交通網の基幹として位置付けることも不可能ではありません。その場合にはヨーロッパの都市のような交通体系が実現されるかもしれませんが、前述の通り必要投資額は相当高くなるものと思われます。そのための資金確保スキーム構築は、残念ながら現状では難しい状況です。
 いずれにしても、徹底的な体質改善を図らずして、中途半端な欠損補助やイベントを行っても、それは「改善なき延命」に手を貸すに過ぎません。 「適材適所」を考慮して公共交通網としてのパフォーマンスをいかに高めるかという発想なくして、ただ「残す」ことを唯一前提条件として議論するのでは、残念ながら救われません。例え残ったとしても先細りは避けられず、後にさらに大きな負担となって跳ね返ってくることでしょう。特にダメなのは「乗って残そう」的な発想で、一時のイベント的な効果しか生み出さないばかりか、リバウンドさえも起こりかねません。「やる」か「やめる」かのいずれかをきっちり決め、決めた後はそれに向かって徹底的に進むしか選択肢はないと思います。 その判断の結果「残す」とすれば、ぜひ有効に機能する鉄道・軌道として生まれ変わってほしいと思います。<03/01/24修正、03/01/31修正>


3.岐阜駅周辺地区整備計画の進展

 岐阜のバスが分かりにくい原因の1つに、JR岐阜駅・名鉄新岐阜駅付近のバスのりばが分散し、案内も不十分であることが挙げられます。この点の改善も含めた「岐阜駅周辺地区整備計画」の検討が行われており、2002年秋にはそれに関連した都市計画決定プロセスが進んでいます。
 この計画の中で、バス・路面電車関連の事項は以下のとおりです。

○JR岐阜駅前広場
 ・バスの総合ターミナルを新設。乗降合わせて15バース。3事業者の使用を前提とし、バス路線再編に対応したものとする。すべてのバスが乗り入れるため、駅前広場に隣接するバス停は廃止。
 ・路面電車を駅前広場に導入。場所はバスターミナルの北側。
○名鉄新岐阜駅前
 ・路面電車電停に安全島を設置。
 ・バス停を整理。
 ・岐阜バスの新岐阜バスセンターは存続。
 ・ペデストリアンデッキは設けず、地上と地下道で歩行動線を確保。

 この計画のミソは路面電車が入っていることで、もしかすると、路面電車乗降場が整備されても肝心の路面電車が廃止となる恐れもあります。 すなわち、駅前広場計画と路面電車廃止問題とは大きく関係しているわけです。しかしながら、バスに関しては3者統合・路線網再編の流れはほぼ間違いありませんので、大きく変更されることはないと思われます。
 この案について問題点を挙げるとすると、名鉄新岐阜駅前のバス停整理と、新岐阜バスセンターが存続することです。新バスターミナルはJR・名鉄両駅からの乗換を考慮してその中間に入っていますが、名鉄からはやや遠くなります。 一方、現在市内各線が停車する新岐阜駅前バス停は、方向幕の読み分けができる利用者にとってはそれなりに使いやすいとも言え、「整理」の内容にもよりますが、もし停車するバスが減るようなことがあれば名鉄からの乗換が不便になることも予想されます。
 また、新岐阜バスセンターが残るとすれば、駅前バスターミナルとの機能分化を分かりやすくすることが必要です。静岡のように、ほとんどの系統が静岡駅前・新静岡センターのいずれも経由するのであればいいのですが、岐阜の場合には駅前をスルーする系統が多く、新岐阜バスセンターのキャパシティも小さいので、静岡のようにするのは無理と思われます。 明確な機能分担を行うとともに、互いの案内を分かりやすく示すことは必須です。できれば、郊外各線は新岐阜バスセンター発着とするものの、それを含めて全系統を駅前バスターミナル経由とすることが考えられます。



 その他、目を引くこととして、岐阜柳ヶ瀬商店街振興組合連合会が企画する「柳バス」が2002年9月28日から実験運行され、一定の成功を収めており、実験終了後(3月以降)も岐阜バスの路線として引き続き運行されていることが挙げられます。 これは、都心部におけるエレベーター・エスカレーター型公共交通の有効性を実証したものであり、都心部活性化にも資するものであると考えます。このような都心交通機関と地域全体の公共交通網との連携も重要な課題であるといえます。

 また、2002年12月20日には、懸案であった岐阜市のオムニバスタウン指定がついに行われました。この結果、2002〜6年度の5年間で、公共車両優先システム(PTPS)、停留所改善、バリアフリー対応新車、デジタル方向幕、バス案内システムといった新しい投資が行われることになります。 これらの投資が、全体の路線計画をうまくサポートするようなものとして機能することが求められます。

 岐阜市では、2002年2月に「オムニバスタウン計画」および「バス路線再編計画」への意見を募集し、その結果を公表しています。 これによると、いずれの計画とも、回答者の8割以上から賛成があり、全体計画はおおむね支持されたという結果となっています。特にポイントとなる、幹線・支線の分離による乗継抵抗の問題に関しては、意見募集の結果を踏まえ、「乗継時間軽減」「乗継料金低減」「乗継情報提供」の3点を検討する必要があるとしています。
 確かに、これらの対応が十分にとられれば、幹線・支線の分離もそれなりに機能すると思いますが、よほど注意深く、しかも詳細まで凝ってやらないと機能しないというのが私の懸念です。このことを考える意味もあって、先日、盛岡市で行われているゾーンバス実験を実際に乗ってみてきたのですが、私のような「一見さん」には残念ながら分かりづらく、特にソフト面で工夫すべき点が相当残されていると感じました。 (それ以前に、盛岡の路線バス案内が、岐阜と同様全く不十分であることが根本的問題ですが。)
 岐阜でもこのような事例を十分参考にして、シミュレーションを徹底的に行った上で、利便性を低下させることのない公共交通網再編を実現してほしいと思います。


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