加藤博和の「路線バスリサーチ」

第3回 「定時性」か「直行性」か? 究極の選択を迫る岐阜市内バス再編

First released: 01/05/11
Last updated: 01/05/21


 新岐阜駅前電車通り4番のりば。岐阜では最も主要な目抜き通りである長良橋通りを北上し、柳ヶ瀬・市役所・大学病院・岐阜公園・長良橋(鵜飼乗船場前)などを経由する系統ののりばです。

 手前(南側)にある5番・6番のりばに停車するバスや、道路の反対側(東側)にある岐阜バス(岐阜乗合自動車)新岐阜バスセンターから発車してくるバスもあり、ひっきりなしにいろいろな車種や塗色のバスが、バラエティ豊かな行先方向幕を出してやってくる様は、路線バス好きにはたまらない場所のはずです。 北方には名鉄電車岐阜市内線のりばもあります。私もよくここを訪れますが、ただ眺めているだけでも楽しいですし、時には、行き先を決めずに訪れ、惹かれたバスに乗るということもあります。

 ところが、近い将来、こののりばの様子を一変させるような計画が検討されています。岐阜市役所による「バス路線再編計画」です。2000年12月には具体的な再編案が公表されました。
 計画の内容の簡単な紹介と、私個人としての評価は後で述べるとして、まず現在の新岐阜付近の様子、そして岐阜市のバスが抱える問題点とその原因について整理していきます。



※このページを公開後、再編問題に絡むさまざまな新しい重要な動きが顕在化してきています。これらについての追加記事は、02/12/24追加記事および05/08/20追加記事をご覧ください。

※以下、内容が古くなっている箇所がありますので、ご注意ください。

※バス路線図は、
「路線図ドットコム」岐阜市・柳津町・岐南町バス路線図
岐阜バス路線図
をご参照ください。



初心者が目当てのバスにすんなり乗るのが困難な名鉄新岐阜・JR岐阜駅前

 バスマニア的には楽しい新岐阜電車通り4番のりばですが、慣れていない乗客にとっては、これほど不親切極まりないのりばもないでしょう。

 まず、停留所標識の前にバスがピッタリ停まるということがあまりありません。 4番のりばに停車する便は昼間でも1時間あたり数十本もあり、2両以上が連続で到着することは当たり前です。乗降客も多いため、バスはどんどん溜まっていってしまいます。 5番・6番のりばに停車するバスや新岐阜バスセンターから発車してくるバスとの交錯、先にある信号交差点待ちによる渋滞、さらにはタクシーや一般車の路上駐停車による妨害もたびたびあり、通りはいつもバスで大混乱です。 仕方なく手前や第2車線で客扱いをせざるを得ません。慣れている利用者は目当てのバスが来て扉を開けると、その方向に向かって一目散に歩いていきますが、初心者はオロオロするばかりです。 岐阜バスの多くの車両が、乗車扉を開閉するとき「ピヨピヨ」という独特の音を鳴らしたり、名鉄バスが車外マイクで丁寧にアナウンスするのは、錯綜するバスの中で自分をアピールする行為のように思えてきます。

 では、バス停に掲出されている案内が頼りになるかといえば、これが全くの役立たずなのです。膨大な種類の時刻表が貼り付けてあるものの、どれを見ればいいのか皆目見当が付かない状況ですし、そもそもこののりばに来る便の大半は、後述する理由のためほとんど定時運行が行われていないので、時刻表はあまりあてになりません。 路線図も見にくいものしかなく、初めての人が見てもピンと来ません。ましてやこの4番のりばは、岐阜バス・岐阜市営バス、名鉄バスの3社が共用し、案内も直方体型停留所標識の各面に各社が別々に掲出しているため、統一性がありません。

 さらに根本的な問題として、こののりばにたどり着けるのか、あるいはたどりついたとして、お目当てのバスがここに来てくれるのかという問題があります。
 名鉄新岐阜駅で電車を降り、改札を出て階段を下りると電車通りに出ます。この手前から左折、さらに右折し地下道に入って道路の反対側に出れば、4〜6番のりばに出ることができます。 一方、電車通りの新岐阜駅側(地下道をくぐらない側)には1〜3番のりばがあり、県庁方面へはこちらを利用する必要があります。通りに出る前に左折して新岐阜百貨店を抜けると、岐阜バス新岐阜バスセンターがあり、主に郊外方面のバスはこちらから発車します。 この3種類ののりばのうち、自分の行きたい方向へのバスがどこから乗車できるかを知るのが至難の業です。総合的な案内板はどこにも存在せず、新岐阜駅構内に設置されている案内標識も、「バスセンター」「高富・長良方面」(4番のりば)「県庁・鏡島方面」(1・2番のりば)を示すのみです。
 初心者にとっての1つの策は新岐阜バスセンターの案内所で尋ねることですが、新岐阜駅からやや行きづらい場所にありますし、もし電車通り4〜6番のりばだとすると、今来たところをまた戻らなければなりません。そして地下道をくぐった先にはバスの洪水があります。 また、この案内所は岐阜バスが運営しているため、岐阜市営バスや名鉄バスの案内が十分に行われる保証はありません。

 岐阜バスでは、電車通りのりば発着系統を市内線、バスセンター発系統を郊外線(着便の降車場はバスセンター外)と分けており、各種案内標識にもそのように表示されていることが1つの手がかりとなります。 しかし、例えば岐阜市外の高富方面に行く名鉄バスや墨俣・岐南町平島<へいじま>・リバーサイドモール(真正町)・聖徳学園大学(柳津町)などに行く岐阜バスは電車通りから、岐阜市内の大洞緑団地や御望野<ごもの>・黒野・西郷に行くバスはバスセンターから発車するというように例外もあります。
 これによる弊害の典型が、市内中心部近くにある梅林公園に向かう花見客の混乱です。梅林公園はシーズン中は臨時バス停が設置されるほどの需要がありますが、そこへ行く路線の大半は郊外線系統であるため、バスセンター発着です。 ところが、多くの外来客は市内線のりばに行ってしまい、大量のバスの前に立ち尽くしてしまうというわけです。期間中、バスセンターと電車通りのりばに案内板が設置されてはいますが、乗客の混乱を防ぐには至っていません。

新岐阜駅前電車通り4番のりば
いつもバスが絶えない新岐阜駅前電車通り4番のりば
手前の名鉄バスも4番のりばのはずだが、すでに扉を開けている


 ここまでは名鉄新岐阜駅について書いてきましたが、南西に数百m離れたJR岐阜駅の場合はさらにやっかいです。
 名鉄線を越える関係で高々架になっている駅を降りて、都心方向の北口に出れば、岐阜駅前バスターミナルがあります(南口にもバス停はあるが、系統・本数は極めて少ない)。 しかしこのバスターミナルは、岐阜市営バスの系統はすべて経由するものの、岐阜バス・名鉄バスについてはのりばが共用で1バースしかないために、大部分の系統は駅前広場を越えた道路にある停留所まで行く必要があります。 (岐阜バスでは、バスターミナル内のりばを「岐阜駅」、道路側停留所を「岐阜駅前」と名称を分けている。)そして、長良橋通り方面へは新岐阜駅前と同様、地下道をくぐって道路の反対側に出なければなりません。 また、岐阜バス郊外線の大部分はJR岐阜駅を通らないため、新岐阜バスセンターまで歩く必要がありますが、そこまでの歩行経路は地下道を最低1度はくぐる必要がある煩雑なもので、しかもその経路案内も全く表示されていません。 (調査を行った5/3から次に訪れた5/19の間に、新岐阜バスセンター〜駅前交番〜市営バスターミナルにある地下横断歩道の上に新たに歩行者信号と横断歩道が追加されました。もともとここは地上を渡る歩行者が多く、それを追認したものですが、これによってJR岐阜駅と名鉄新岐阜駅の間に地下道をくぐらないルートができたことになります。)
 岐阜駅前バスターミナルにも案内所が設けられていますが、こちらは岐阜市営バスが運営しており、岐阜バスや名鉄バスについて十分に教えてもらえる保証はやはりありません。

 さらに、JR岐阜駅とバスのりばとの距離は、駅が高架化された時に南側にずれたことで、かなり遠くなってしまいました。岐阜市内の主要公共交通機関はバスであるにもかかわらず、残念ながらJR岐阜駅はバス乗り換えに冷たい駅というのが現状です。

JR岐阜駅前バスターミナルと案内所
JR岐阜駅前バスターミナル(案内所は左方の写真外)
場所は絶好だが、ここから乗れるバスが限られており、案内も不十分なのは問題



見直しが必要なのは明白だが・・・

 岐阜市内のバスが抱える問題点は、新岐阜・岐阜駅ターミナルの分散だけではありません。ほかにも、

1.のりばだけでなく、路線・系統そのものが複雑である。
2.案内が不十分であり、事業者間の統一も図られていない。(系統が複雑すぎて統一的な案内を作るのが困難とも言える。)
3.定時性が確保されていない。
4.主要な通りで本数過剰となっており、昼間でもダンゴ運転が多く発生している。
5.道路が貧弱であり、路面電車の存在や事業者間競合もあって、走行環境が極めて悪い。
6.都心部から郊外部に直行する形態の路線がほとんどのため、大型の車両が郊外の閑散地域まで運行せざるを得ない。


といった問題があります。

 これでも利用者が多いときはよかったのですが、ご多分に漏れず岐阜でもバス利用者は減少の一途をたどっており、さらに柳ヶ瀬を中心とした都心部の衰退が著しいこともあって、各路線バス事業者はいずれも赤字体質となってしまっています。 独立採算制と公共性が同時に求められる地方公営企業である岐阜市営バス(岐阜市交通部)の不振は当然とも言えますが、近年では、岐阜バスの経営状況も芳しくありません。

 この状況に対して、各事業者に自主的な建て直しを求めるのも容易ではありません。なぜなら、何度も繰り返しているように、岐阜市内には3事業者が並存するため、互いの競合や路線・乗入権確保といった問題が付きまとうためです。 例えば、バス停標識を共通化するにも、費用負担や維持管理方法など細かい調整が必要となります。「3社共通バスカード」の導入も大変な事業であったことが想像されます。

 そのため、岐阜市役所では交通政策室を設置し、交通社会実験を含めた各種の検討を行い、その一結論としてバス路線再編を提案するに至ったというわけです。
 再編案の骨子は以下の通りです。

1.系統数を215から71に整理する。
2.系統長を短縮し、主要区間を走る幹線バス(8系統)と、端末区間を走る支線バスに分ける。
3.幹線バスと支線バスとの乗り換え地点を整備する。
4.鉄道との接続を重視する。


 幹線系統として、
・長良橋通り(三田洞山崎)
・国道248号線(野一色・県立岐阜病院)
・忠節橋通り(岐阜大学)
・県道岐阜垂井線(県民ふれあい会館)
・県道岐阜南濃線(鶉ターミナル)
・金華橋通り(メモリアルセンター正門前)
・県道岐阜巣南大野線(市民病院前)
・国道157号線(茜部小学校前)
が指定されています。幹線部分から多少はみ出る程度の系統や、特に需要の多い系統を除いては、すべて( )で示した終点で支線系統に乗り継ぐ方式になっています。
 また、鉄道も幹線バスと同様にとらえ、JR西岐阜駅・JR長森駅・名鉄下芥見駅も乗り継ぎ点として想定されています。
 なお、この再編案では、岐阜バス新岐阜バスセンター発の距離の長い郊外線(板取線・八幡線など)の扱いに関しては明確にされていないようです。


三田洞山崎バス停
三田洞山崎バス停 ここが乗り継ぎ点として機能することはできるのか?


幹線・支線の分化でバスは救われない

 以上のような再編を実施することで、岐阜の路線バスが復権するのであれば、これほどありがたいことはありません。
 そこで、再編案の実施が路線バス復権にとって有効にはたらくかどうかを検証するために、再編案の最大のポイントである「幹線・支線の分化」のメリットとして市交通対策室が挙げている
 1.需要に見合った本数の設定
 2.非効率的な路線設定の解消
 3.定時性・高速性の確保
 4.行き先の方向別整理による明確化

のそれぞれを取り上げ、詳細な検討を試みます。

○「1.需要に見合った本数の設定」について
 本数過剰の理由は、「各路線がすべて主要な通りに乗り入れてくること」とされ、それを防ぐために、乗り継ぎ点を設けて幹線の本数を絞ることが考えられているというわけです。 最も系統が集中するJR岐阜駅〜名鉄新岐阜の区間は、1日2,924本から1,600本に減らすことが考えられています。
 しかし「各路線がすべて主要な通りに乗り入れてくること」が本数過剰の原因であるという認識は必ずしもあたっていません。それを確かめるための例として、最も本数過剰が顕著な長良橋通りにおけるバス本数の過剰を取り上げます。

 平日10時台の柳ヶ瀬バス停における長良北町(以前、名鉄電車岐阜市内線の終点だったところ)方面行きの時刻を下記に示します(01年5月現在)。

事業者 路線名 長良橋通りから分岐
する地点または終点
時刻
名鉄バス
(11本)
岐阜・高富線 高富 04 10 22 32 42 47 52 57
高富大竜寺前 16 27 37
岐阜バス
(23本)
岐北線 (高富以遠) 20 30
板取線 (高富以遠) 50
高美線 岐北病院前
岐阜女子大線 岐北病院前 00 10 40
(あ)茜部三田洞線 三田洞 05 25 45
岐垣線 三田洞 15 35 55
彦坂線 戸羽川 15
(き)城田寺岐南町線 長良天神 53
(お)おぶさ加納線 長良北町 18 38 58
(し)松籟加納線 長良北町 08 28 48
(り)岐南町線 長良北町 02 32
岐垣線 長良北町 21
※岐阜市営バスのほとんどの便は、長良橋通りの柳ヶ瀬停でなく、西隣の金華橋通りの柳ヶ瀬停を通ります。ここを通って三田洞方面に行く系統も存在します。

 太字は岐阜市外の高富大竜寺前以遠に行く系統(17本)太字および斜字は三田洞(幹線・支線バスの結節点が想定されている三田洞山崎の1つ手前)まで行く便(23本) です。
 オフピーク時にもかかわらず、長良北町までは平均で約1.8分ヘッド、三田洞までは約2.6分ヘッド、高富大竜寺まででさえ約3.5分ヘッドと、本数過剰であることは間違いありません。 この中で本数が突出しているのは、長良橋通りの幹線区間から分岐することなく北上する名鉄バスです。つまり、単に支線から集まってくることが本数過剰の原因ではなく、幹線区間そのものを運行する名鉄バスと、幹線から支線に乗り入れる路線を多数走らせている岐阜バスが並存することが原因なのです。
 そこで、本数を間引くために、三田洞以遠に行く系統を三田洞山崎で分割するというのが再編案の考え方ですが、それをしなくても、極端な話、名鉄バスの系統を減便することによって幹線区間の総本数を減らすことが可能です。 一方、もし再編案が実行されると、高富から岐阜駅方面へは、乗り継ぎが必要となる上に大減便となって、大打撃を受けてしまいます。 また、運行面でも、名鉄バスは高富に営業所を持っているために、三田洞山崎で分割されても何のメリットもありません。
 ただし、名鉄バスはその系統の単純さ(すなわち分かりやすさ)のゆえに、この区間ではよく利用されていますので、これを減便する場合には、同区間を走る岐阜バスと合わせて「幹線バス」と位置付け、統一ののりばやダイヤ・案内を行う必要があることは言うまでもありません。

 幹線・支線の分化による他のメリットとして、幹線区間の適正化で浮いた分を支線に回して増便しサービス向上を図るという考え方がありますが、これも必ずしもうまくいくとは言えません。なぜなら、乗り継ぎによる利便性低下、新岐阜・JR岐阜駅につながっていないというマイナスによる乗客の逸走を、支線部の増便による利便性の増加がカバーできるという保証はどこにもないからです。
 また、支線から幹線に直通する現在の路線形態では、末端部分の赤字を幹線部分でカバーする構造になっているため、支線区間を分離すると、その区間は民間事業者による維持が不可能になってしまう可能性が高くなります。 さらに、支線分離によって乗客の逸走が生じた場合、結果的に支線区間の多くは自治体運営とせざるを得なくなるでしょう。 もちろんそのことは再編案でも意識されていると思われ、岐阜市には支線部引き受けの意欲と余裕があるのでしょうが、従来路線がすべて支線となって新岐阜・JR岐阜駅へは乗換えを余儀なくされ、しかも何らかの財政的てこ入れが必要となる周辺市町村にとっては計り知れないほど大きな問題となるでしょう。 そして、これら周辺市町村の乗客の大多数は、乗り継ぎを余儀なくされる岐阜市内への利用であることを忘れることはできません。

○「2.非効率的な路線設定の解消」について
 これが具体的に意味する点の1つは、岐阜市内のバス路線に特徴的な、新岐阜・JR岐阜駅を発着点でなく通過点とする運行形態であり、再編案では全路線がJR岐阜駅発着に改められることが想定されています。
 しかし、新岐阜・JR岐阜駅を通過点とする現行の形態は、積極的な理由と消極的な理由があってのことです。
 積極的な理由は、JR岐阜駅南側の地区から北側の柳ヶ瀬方面へ直通運行する必要性です。(以前は、JR岐阜駅より北側にある新岐阜への直通という意味も大きかったのですが、JR岐阜駅南口整備によってその意味は薄れるとともに、JR岐阜駅南のバス路線は大きな打撃を受けました。)
 都心空洞化対策が大きな課題となっている状況で、市南部から柳ヶ瀬方面へのバス直行運行をなくすことがマイナスに働くことは言うまでもないでしょう。 そこで、市北部〜JR岐阜駅と柳ヶ瀬〜市南部という2系統に分割することが考えられますが、この方法では岐阜駅〜柳ヶ瀬間がますます本数過剰となってしまいますし、そもそも柳ヶ瀬付近に折り返し運行をするためのターミナル設備や待機場がなく、またJR岐阜駅や新岐阜のターミナルも貧弱なため、結果的にスルー運行とせざるを得ません。 これが消極的な理由です。他にも、岐阜大学へのアクセスを確保する岐大キャンパス線が岐阜大学→千手堂→岐阜駅→新岐阜→徹明町→千手堂→岐阜大学という終端部循環をとっているのも、ターミナル機能の貧弱さを前提にJR岐阜駅・新岐阜と柳ヶ瀬をカバーするための苦肉の策なのです。
 実際問題、都心部に大きなバスターミナルを設けるより、都心部はスルーとして郊外各所に転回施設を設ける方が、都心部の土地有効利用の観点からは望ましいという考えも成り立ちます。

 もう1つの非効率性として挙げられるのは車両サイズです。現在の幹線・支線直行型では、幹線部の需要に合わせた大型バスを末端部まで運行することになります。幹線・支線の分離によって、幹線は大型バス、支線は中・小型バスや場合によっては乗合タクシーという形をとることもできます。 ただし、実際には支線部の多くで主に通学需要によって中・小型バスではさばけない需要が発生し、かつ朝夕と昼間で違うバスを用意するのが非効率であることを考えると、必ずしも支線バスの小型化が可能であるとも言いきれません。

○「3.定時性・高速性の確保」について
 幹線区間での本数の適正化は、ダンゴ運転を防ぎ、定時性や高速性の向上に役立つことは確かです。実は岐阜市内では、ダンゴ運転を解消するために、停車中のバスを後続のバスが追い越すことが、同一事業者同士でも日常的に行われているほどです。
 ダンゴ運転解消は重要な課題ですが、単に本数の適正化のみならず、幹線区間での道路渋滞や信号制御の問題も原因であり、バス優先方策を併せて行わない限り、定時性や高速性の大幅な改善は困難です。その具体策は今のところ提示されていません。いくら何でも、98年末の社会実験のような強制的バス専用レーンを恒常的に実施するのは不可能でしょう。 そもそも、既に交通規制として実施されている名鉄新岐阜駅前電車通りからの一般車完全排除という基本的なことさえもできてもいないのが現状です。
 別の主張として、系統長が短縮されることによって遅れが減るとともに、遅れが広範囲に広がることが防がれるというものがあります。しかしこれも、幹線バスから支線バスへの接続ダイヤを保証する以上、幹線の遅れが支線に波及することになるため、必ずしも正しい主張とは言えません。 逆に支線から幹線への乗り継ぎにおいては、もともと幹線部のダイヤは頻発ですから接続ダイヤは不要ですが、郊外からの直行バスの場合でも、遅れてきても幹線バス区間上のみを見れば大した問題にはなりませんし、そもそも郊外部でひどい遅延が生じるケースは都心部に比べ多いとは言えません。 幹線・支線乗り継ぎとすればその時間分だけ所要時間は遅くなってしまいますし、ましてや多客時のバス乗り継ぎには長い時間が必要となってしまいます。
 いずれにせよ、利便性を犠牲にした画一的な本数適正化・系統短縮は邪道です。問題にすべきは、新岐阜・岐阜駅をスルー運行することによって、郊外部から都心部に向かう間の遅れを再び郊外に向かう際に引きずることであり、その根本には、都心部のターミナル施設の不備があるわけです。

○「4.行き先の方向別整理による明確化」について
 系統の単純化は、利用者にとっての分かりやすさにつながり、安心して乗れるようになるきっかけとなることは言わずもがなです。しかし、それは、系統の単純化、特に幹線・支線系統の分離なくして実現できないことなのでしょうか? 答えはむろん否です。
 例えば、先ほど表に示した長良北町方面に行く系統は、すべて系統番号やイメージカラーを統一し、方向幕に系統番号とともに「長良橋通り」という表記を大書きしたり、案内標識や地図・停留所・パンフレット等の表現にも一貫性を持たせるという方法をとることは今すぐ可能なはずです。 岐阜バスでは既に、方向幕の色を方面別に整理していますが、停留所やバスセンターの案内とリンクしていないため、有効性が損なわれています。とにかく、このような案内システムに関する工夫を行わないで、いきなり路線をいじるというのは拙速に過ぎると思います。
 もし、幹線・支線の分離を実施した場合、岐阜駅・新岐阜では「そこを通らない」支線系統の案内をより明確に行う必要があります。このとき、どの幹線系統から乗り換えるのか、またどの便が接続するのかを案内するのが煩雑になるおそれがあります。また、支線から幹線に行く場合、岐阜都心方面への便がどちらの方向かが分かりにくくなるという問題も生じてきます。


「採算性向上を目的とした路線分断が裏目」 名古屋市バスの教訓

 再編案では、幹線・支線の分離によって現在のバス利用者のうち約18%(13,600人)が乗り継ぎをしなければならなくなるとのことです。 これを多いと見るべきか少ないと見るべきか、また、これによって幹線・支線のそれぞれで乗客はどのように増減するかを事前に予測するのは困難です。

 そこで、過去の経験として、98年5月に行われた名古屋市交通局の路線再編を取り上げてみます。
 この再編においても、1)地下鉄との乗り継ぎ重視、2)系統長の短縮化といった、今回の岐阜と同様の方針によって、各系統で分断や短縮化が図られました。 名古屋市バスはごく一部の例外を除いて均一運賃制をとっているため、系統短縮によってバス同士や地下鉄との乗り継ぎ増加が増収に直接結びつき経営改善につながることや、定時性確保の観点からも、系統短縮は経営改善に有効であると考えられたのです。 しかし残念ながら、結果は芳しくありません。系統短縮によって収支改善が図られた系統は少なく、経営改善が進まないばかりか、むしろ路線分断に対する利用者の不満が社会問題化するという状況となりました。 利用者のバス利用心理を無視した系統短縮が「素人考え」であるということを示した典型例であると言えましょう。結局その後の再編で、一部の系統では元通りの運行に戻ってしまっています。
 名古屋市バスでは従来から、基幹バス系統と一般系統との乗り継ぎも想定されています。星崎で基幹1号と接続する要町11(要町〜星崎〜有松町口無池)や、引山で基幹2号と接続する引山11(引山〜印場駅〜中志段味)・本郷11(本郷〜引山〜本地住宅)がそれですが、いずれの系統も状況は芳しくありません。
 また、鳴り物入りで登場した「都心ループバス」は一時は黒字化したほどの大繁盛ですが、その開業と同時に名古屋駅〜栄間の運行を取りやめ、栄〜名大病院〜妙見町間に運行が短縮された栄18(旧50)系統は大赤字に転落してしまいました。このように、都心ループバスの成功だけに注目していては全体の状況を見失ってしまいます。 この例は、幹線バス・支線バスの分離は、黒字・赤字路線の分離を意味するということを示した典型と言えます。

 このような名古屋市バスの教訓は、岐阜市においても他山の石とするべきでしょう。すなわち、路線短縮とそれによる乗り継ぎの増加は乗客の利便性を低下させて逸走を招き、定時性確保や運行効率化の効果を打ち消すおそれが強いということです。
 考えてみれば、「直通運行」は路線バスにとって鉄道に対抗するための重要なメリットです。 三重交通の名鉄バスセンター・栄〜桑名・四日市郊外住宅団地間高速バスの大躍進も、両地点を直通していることに大きな原因があります。 鉄道に比べてスピードは劣るが、一度乗れば目的地近くまでそのまま行ってくれることが路線バスの魅力であり、これは最近の公共交通サービス向上の1キーワードである「シームレス(継ぎ目のない)性」そのものと言えます。 路線分断でそのメリットを失うことは、バスの魅力そのものを捨てることになりかねません。ましてや、支線部分の利用客の大部分は幹線部分への直通客であり、すなわち路線分断によって乗り継ぎを余儀なくされてしまうのです。
 これをカバーするためには、幹線部分を高速化することと、乗り継ぎを容易にすることが必要ですが、地下鉄ならともかくLRTやバスレーン程度の高速化策ではとても不十分ですし、バス同士の乗り継ぎは、いくら施設や車両のハード面やダイヤ接続面、運賃面に配慮したとしても、 着席の保証がないことや、一度立って歩かなければならないこと、時間ロスが生じることは避けられません。
 私が考える結節点の条件とは「ほとんど苦痛なく乗り継ぎが可能」または「結節点自体が何らかの魅力を持つ」というものです。人間にとって、何もないところで乗り換えさせられるほど苦痛なことはありません。公共交通をサービス業としてとらえるのであれば、絶対に避けるべきでしょう。
 これは、JR西岐阜駅・長森駅、名鉄下芥見駅のような鉄道との接続にも共通します。そもそも、現状では幹線・支線や鉄道・フィーダーの乗り継ぎ点整備という重要なポイントについて明確な方針が示されていないのです。

 私が考える「支線部から幹線部への直通を認めつつ、幹線区間を『たばねる』」という発想は、名古屋で言えばガイドウェイバス「ゆとりーとライン」で実現されています。 ガイドウェイバスシステムは、幹線部は専用道路(軌道)、支線部は一般道路を走行し、双方を直通させるという「デュアルモード」の考え方に基づくシステムです。この考え方を適用するのに最も適しているのが、まさに岐阜の長良橋通りなのです。


新岐阜郊外線降車場
岐阜バス郊外線の新岐阜降車場
ターミナルが未整備のため、降車場は駅前(写真奥)からかなり手前の位置にならざるを得ない



では、どうすればいいのか?

 以上に示してきたように、私は残念ながら岐阜市のバス再編案について否定的な見解を持っています。 系統整理・単純化の必要性は明らかですが、さらに踏み込んだ「幹線・支線の分化」を岐阜市のような規模の都市に導入してもメリットはあまり得られず、バスの利便性向上は望めないどころか、逆に、バスネットワークを破壊する可能性があるとさえ考えています。
 また、市主導での再編案の実効性や、乗り継ぎ施設・ターミナル整備といった前提条件の実現可能性について疑問があり、そもそも再編案のフィージビリティ自体が低いと言わざるを得ません。

 しかし、むろん今のままでいいわけはありません。私は、岐阜の路線バス網の問題点は特に以下の点に集約されると考えています。
  1.新岐阜・岐阜駅ののりばが分散されており、分かりにくいとともに運行面でもネック。特に新岐阜電車通りのりばの未整備は問題。
  2.3事業者が並存しており、調整がない。特に岐阜市営バスの系統が複雑すぎる。

 これを解決する方法は、幹線・支線バス、鉄道・フィーダーバスというシステムではありません。私の考える解決の道は、
  第1ステップ:案内システムの根本的見直し
  第2ステップ:系統の(短縮化を伴わない)単純化
  第3ステップ:新岐阜・JR岐阜駅周辺のバスターミナル整備
となります。

 まず、3事業者間で、系統番号・方向幕デザイン・バス停標識・掲示物・配布物・案内所といったトータルでの案内システムを統一します。 例えば、系統番号は岐阜バスでは「ひらがな」、岐阜市営バスでは数字を用いていますが、これらを統一するとともに、案内に役立つように方向別に分かりやすく整理するべきです。
 このとき、例えば
・長良橋通り:長良○○、イメージカラーは青色
・金華橋通り:金華○○、黄色
・忠節橋通り:忠節○○、紫色
・国道248号線:梅林○○、梅色
・県道岐阜巣南大野線:森屋○○、緑色
などと、通り名を系統番号に冠し(○○は2ケタの数字)、さらに連想される色を路線のイメージカラーとして方向幕や案内標識等の色に用いるとともに、のりばもそろえてはどうでしょうか? その具体的な案をこちらに示しますので、ぜひご覧ください。
 上記の系統番号に当てはまりにくい系統や、複雑な経由地や枝線を持つ系統に関しては、なるべく単純化されるか、案内をあまり行わない「玄人向け」路線として位置付けるべきです。 特にこの種の系統を多く持つ岐阜市営バスには、単純化の余地がかなり残されていますし、3事業者で錯綜する路線を整理し共通化することも必要です。

 一方、岐阜駅・新岐阜をスルーする系統のうち、その必要がないものに関しては、系統分割を行うべきでしょう。 例えば、岐垣(ぎえん)線(三田洞団地〜新岐阜〜岐阜駅〜墨俣)、茜部三田洞線(三田洞団地〜新岐阜〜岐阜駅〜下佐波〜高桑)、聖徳学園大線(水海道〜新岐阜〜岐阜駅〜岐阜流通センター〜聖徳学園大学)を、三田洞団地・水海道〜新岐阜〜JR岐阜駅と大学病院前〜新岐阜〜JR岐阜駅〜墨俣・岐阜流通センター・聖徳学園大学に再編することによって、各地区からJR岐阜駅・新岐阜と柳ヶ瀬までの足を確保しつつ系統長を短くし、遅延が広範囲にわたらないようにします。

 最後に、バスターミナルの整備は、新規のインフラ建設を伴うとはいえ、早急に行うべき課題と言えます。 最も理想的なのは、現在の岐阜バスセンターと岐阜駅前バスターミナルを統合して、JR岐阜駅と名鉄新岐阜の中間地点にターミナルを設けることであると考えています。 現在の岐阜バスの系統は、新岐阜ではバスセンター発着系統と電車通り発着系統の2通りに、JR岐阜駅ではバスターミナルに入る系統と道路上ののりばに発着する系統、全く経由しない系統の3種類に分かれており、この付近ののりばの複雑さの原因となっています。 岐阜バスセンターとJR岐阜駅前バスターミナルが統合され、これらの系統がすべて新しいバスターミナル発着となれば、飛躍的に分かりやすさは向上します。
 また、現在ののりばを変更しない代わりに、JR岐阜駅〜新岐阜間にペデストリアンデッキを設けるという方法も考えられます。JR岐阜駅・名鉄新岐阜駅ともコンコースは2階にありますので、高さをそれに合わせてデッキを設けるとともに、その上にバスの総合案内所を設け、各種のりば案内を整備すれば、バスの分かりやすさ・乗りやすさは大きく向上できます。 (この部分を書き終わった後、5月9日付中日新聞朝刊岐阜・近郊版で、類似の案が岐阜市によって発表されたのを見て少々驚きました。)
 ターミナル整備・統一は、他にもメモリアルセンター付近で必要と言えます。メモリアルセンター付近も岐阜バスと市営バスの系統が錯綜しており、のりばも無意味に分散しています。これらの整理も大きな課題です。
 JR岐阜駅・新岐阜とメモリアルセンターのターミナル整備・統一が行われずして、幹線・支線系統の乗り継ぎ点整備が行われるとすれば、全く本末転倒のように思います。


「基本コンテンツ」の充実なくしてありえないバス復権 浜松市・遠鉄に学べ!

 以上に述べた施策は、事業者単独での実施が困難なものばかりであり、行政主導で行うべきものです。
 事業者と行政が協力し分担しあって、これらの施策を既に実現してきた地域があります。路線バス先進地域として有名な浜松市・遠州鉄道がそうです。 浜松駅前バスターミナルの機能性・分かりやすさは有名ですし、系統も整理されていて、案内にも一貫性があります。

 私は、路線・ダイヤ・停留所・車両を、路線バスの「基本コンテンツ」と呼んでいます。これらが移動者・利用者にとって魅力的なものになっていることと、さらに利用者に対して分かりやすく案内されていることによって、初めて路線バスが利用されるのです。 付随的な情報システムの導入や、奇をてらった車両の導入といった小手先の方法でカバーされるものではとてもありません。
 遠鉄というと、トランジットモール実験や位置情報システム、ノンステップバス、ハイグレードバス停といった派手な面が注目されがちですが、基本コンテンツが充実していることが路線バス先進地と言われる理由であり、だからこそ前述の取り組みも生きてくるということを理解しておくべきです。

 関連して、運賃についても再考の必要があります。岐阜市では、かなり広い範囲で200円均一運賃となっていますが、このことが平均乗車距離の増加を招き、採算面でのマイナス要因ともなっています。また、均一区間外との運賃格差の大きさも問題です。 例えば、岐阜バス岐大キャンパス線でJR岐阜駅や新岐阜から終点の岐阜大学へ向かう場合、新岐阜から12個目の停留所で均一区間の端にあたる正木北まではずっと200円ですが、そこから3個目の岐阜大学では310円になってしまいます。
 現金収受の場合には、均一運賃制は単純でかつ乗降時間も短縮できるという点で有効でしたが、最近では岐阜市内では3社共通バスカードの利用がかなり増えてきていますので、むしろ区間制を導入して、近距離を安くし均一区間内外の格差をなくすことが望ましいと考えます。 これに関しても、遠鉄は最低運賃100円から小刻みに上がっていく方式をとっており、既に実現されていることです。

 浜松市・遠鉄で実現し、岐阜市が実現できていないもう1つの重要な点は、事業者の統合です。浜松では、市営バスが遠鉄に統合され、事業者が一本化された過去があります。 路線バス規制緩和前夜となった今、採算性と公共性が同時に求められる「地方公営企業」としての公営バスの立場は微妙となっています。不採算の公営バスは、よりコストの安い民営に移管するか、公的資金からの補助を前提としたコミュニティバスへの移行が避けられないでしょう。 そういう意味で、岐阜市営バスはまさにその存在意義が問われています。
 また、運行面でも、岐阜市営バスの営業所が市北西部の柿ヶ瀬にあることや、高富町に営業所があるのが岐阜バスでなく名鉄バスであることなどのミスマッチによって、多くの回送運行が生じています。 3者統合によって、ターミナルや案内システムの一本化とともに、このような運行面での非効率性を改善することができると考えます。

 岐阜のバス路線再編は、中心市街地活性化を含めて、いかに市内に人を呼び込むかという施策の中に位置付けられるべきものです。 その判断基準として、単に採算確保や運行効率向上といった狭い目的関数でなく、「岐阜にバスで○○しに来たくなる」ようにするにはどうすべきかという、マーケティング的な目的関数を設定していくべきです。 そのような視点なくしては、路線バスも都市も縮小への軌道をたどりつづけるほかないでしょう。



 この文章を書いた後、私は改めて岐阜のバスに乗ってみました。休日にもかかわらず、新岐阜駅前電車通りは相変わらずたくさんのバスが入り乱れ、乗客が開いた扉に一目散に向かっていきます。 出発したものの交差点渋滞で動けずにいるバスの扉を、乗務員呼び出しボタンを押して開けさせることも珍しくありません。
 その後、柳ヶ瀬まで歩き、そこから三田洞方面に向かうため、最初に来た美山谷合行きの岐阜バスに乗車しました。柳ヶ瀬はその勢いは衰えたとはいえ、やはり岐阜の都心だけあって、私と一緒に多くの人が乗り込みました。 そして、20人ほどの乗客のほとんど三田洞の先まで行く乗客でした。居眠りしている乗客もちらほらいます。
 この路線は長距離郊外線ですので、再編によって三田洞で分断されるかどうかは明確ではありませんが、もし三田洞乗り換えになったとしても、この人たちは文句を言わずバスに乗り続けてくれるのでしょうか? 「バスネットワーク全体では便利になるから、我慢して乗り換えてください」と訴えるだけの確信と勇気は、私には湧いてきません。



※このページを公開後、再編問題に絡むさまざまな新しい重要な動きが顕在化してきています。これらについての追加記事は、こちら(02/12/24追加記事)をご覧ください。



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