加藤博和の「路線バスリサーチ」

第4回 市町村は「路線バス」にどう関わればよいか? その課題を愛知県東浦町に見る

First released: 01/08/17
Last updated: 01/08/17


※このページを公開後、東浦町内では町運行バス運行開始や知多バスの路線変更などが多数行われています。これらについての追加記事は、こちらをご覧ください。


 1年半ほど前、愛知県内の市町村バス担当者が出席した座談会に出させていただいた時、「今後、民営の路線バスはどこが廃止されても不思議ではない。また、廃止表明がされてから対応していては遅いのであって、事前に備えておくことが必要である」と発言したことがあります。 その時、出席者の方々の顔はあまりピンときていないという感じに見えました。
 しかし、2002年2月の乗合バス参入退出規制緩和を目前にして、東海地方でも近年、過疎地域のみならず、地域間を結ぶ基幹的な路線や、鉄道駅と住宅地・市街地を結ぶ路線といった、従来は比較的楽観視されてきた路線でさえ、廃止や補助要請が後を絶たない状況に陥っています。 私の予言は残念ながら現実になってしまったのです。

 このような状況にもかかわらず、多くの地方自治体の対応は残念ながらお粗末な状態です。路線廃止に関する報道が行われるとき、自治体はほとんどの場合「突然のことで驚いた」「意外だ」「困惑している」などというコメントを出し、「対応は今後検討したい」という決まり文句も出てきます。 そしてその後は、対策協議会を作って署名を集めたり、利用促進運動をしたりして存続を訴えるというように、事業者に対して「お願い」をするというパターンが繰り返されています。
 いつ廃止されてもおかしくない路線だということは地元なら重々分かっていそうなものなのに、「意外」「困惑」という言葉が出ることが不思議です。そもそも、果たして、公共性が強いとはいえ採算がとれない事業を続けてもらうように、民間企業にお願いすることが妥当と言えるのでしょうか?  そういうことは本来、自治体がイニシアチブをとってやるべきことではないでしょうか?

 また、廃止対象となった路線に対し、とりあえず欠損補助金を出して存続を図るということも一般に行われてきました。しかし、路線バスが退潮傾向にある現在では、有効な見直しのない欠損補助は単なる延命策に過ぎません。 既存事業者が廃止表明をした段階でその路線には「落第」のラク印が押されたも同然なのに、そのまま存続するというのはおかしなことです。
 例えば、名鉄バス草井線(江南駅〜すいとぴあ江南)や萩原線(国府宮〜西御堂団地)は、名鉄の廃止表明後にいったん地元自治体からの欠損補助で存続(萩原線は一宮市の要請で萩原工業団地まで延長)したものの、その後結局廃止されてしまいました。 過疎地域の廃止代替バスも同様で、基本的には元の路線やダイヤをほぼそのままで存続させることが一般的でした。 従来は国や都道府県の補助金制度が既存路線の維持や廃止代替路線に対して手厚かったことが足かせとなっていましたが、この制度も見直しが進んでおり、既存路線を単に延命させるのでなく、見直しを行って新たな需要を開拓するという方向に進むための土壌が整いつつあります。

 そこで今回は、自治体がどのようなスタンスで路線バスに関わっていけばよいのかを考えるための例として、私を今年2月にシンポジウムの講演者としてお招きいただいた愛知県東浦町のバス路線網を取り上げることとします。

※路線図は、こちらをご参照ください。


路線バスの存立基盤に乏しい東浦町

 愛知県知多郡東浦町は、人口4万5千人余りの、愛知県で2番目に人口の多い「町」です。名古屋から程近い位置にもかかわらず、JR武豊線沿線ということで、従来はベッドタウン化から取り残され、知名度も今一歩の感がありました。 しかし、近年の輸送改善や道路アクセス向上により、急速な宅地開発が進み、人口も増加傾向にあります。

 この町の地勢的特徴として、明確な中心地が存在せず、各地区の独自色が強いことが挙げられます。町東側のJR沿いには、地区(大字)が北から順に、森岡・緒川(おがわ)・石浜・生路(いくじ)・藤江と並んでいます。 JR東浦駅はこのうち町の南部の生路と藤江の境にあり、名前通りの町の玄関駅というわけではありません。一方、他の3地区にはそれぞれ駅があり、駅間隔が細かくなっています。
 役場は緒川駅から徒歩10分ほどのところにあり、町は緒川駅付近を中心市街地にすべく区画整理を実施しており、7月24日には駅東に知多半島最大のショッピングモール「イオン東浦ショッピングセンター」がオープンしました。 イオン東浦内には東浦町の行政サービスコーナーも設置されており、役場の住民サービスも提供されています。 しかし、現在のところは、緒川地区が町の中心と言えるような状況にはありません。
 また、町の西部には緒川新田地区があり、その南には名鉄巽ヶ丘駅を最寄りとする東ヶ丘団地があります。この西部地域と東部地域の間が農地で隔てられ、互いの交流が活発でないのもこの町の特徴と言えます。

 以上に述べた特徴は、この町における路線バスの不利を示しています。すなわち、
・主要市街地をJRが貫き、しかも駅が細かく存在する。
・駅から徒歩圏より遠く離れたところに住宅地が発達していない。
・地区間の交流が盛んでない。
・中心市街地・商業地が存在しない。
という点です。

JR東浦駅
JR東浦駅 町南部に位置する
名前通りの中心駅ではなく、バスも乗り入れていない 利用の大半は東浦高校への通学



縮小を続ける町内の路線バス

 東浦町内には現在でも5路線の民営バス(いずれも知多バス)が運行しています。 ただし、このうち大府線(大府駅西〜中部病院・あいち健康の森・げんきの郷)は施設アクセス用であり、東ヶ丘線(巽ヶ丘駅前〜東ヶ丘団地〜巽ヶ丘駅前)は団地から名鉄巽ヶ丘駅へのフィーダー路線ということで、町の交通の主要部分を担うものではありません。
 そこで、ここでは残りの東浦線(大府駅西〜森岡台〜中部病院〜緒川駅西〜石浜住宅)、刈谷・半田線(刈谷駅前〜緒川駅西〜石浜住宅〜知多半田)、刈谷・石浜住宅線(刈谷駅前〜中央図書館前〜緒川駅西〜石浜住宅)を問題にします。

 手元にある、1986年版名鉄電車・バス時刻表を見ると、知立駅3番のりば発の知多バス時刻表が掲載されています。刈谷駅前・緒川旭町を経由して生路(JR<当時は国鉄>東浦駅のすぐ西)までは日中ほぼ20分ヘッドという高密度運転で、その先の知多半田までは1時間に2本、反対方向の大府へも1時間に1本というダイヤです。
 しかし、15年後の現在、知立駅から東浦にバスで行くことはできません。知多バスの知立駅乗り入れは廃止されて久しく、現在ではJR刈谷駅前発に改められてしまっているからです。刈谷駅前からの知多バスも、知多半田行きと石浜住宅行きを合わせて日中は1時間に1本程度しかありません。
 このように、東浦町内を走る知多バスの路線は、廃止こそなかったものの、猛烈な勢いでダイヤ削減が行われてきました。現在の利用状況データを見ると、まともに利用されているのは刈谷駅前〜石浜住宅のみであり、あとは人口集中地域を通るものの、JRと並行する部分が多く、そのJRが輸送改善で便利になったため、路線バスは利用されなくなっています。 東浦線のうち特に駅フィーダ輸送が期待できそうな森岡台〜大府駅西の利用も芳しくありません。
 また、乗降データを見ると、対大府・刈谷輸送が多くを占め、町内移動にほとんど利用されていません。結果的に、東浦線と刈谷・半田線は乗車密度5人未満のいわゆる「第3種生活路線」であり、刈谷・石浜住宅線もそれに近い利用状況にあります。

 私も、東浦町内のバスには幾度となく乗車したことがあります。しかし、お世辞にもよく利用されているとは言い難い状況で、町内のほとんどのバス停が乗降ゼロという状態に、何とかならないものかと毎回考えさせられます。
 このように、ほとんど利用されていないにもかかわらず、刈谷・半田線は東浦町を含めた沿線自治体の欠損補助によって運行が続けられています。一方、東浦線は今年度末での廃止が知多バスから打ち出されています。


「旧態依然」「本数はあっても使えないダイヤ」これでは乗らないのも当然

 では、現在の路線のどこに問題があるかについて詳しく見てみましょう。

1.路線の冗長さ

 大府駅西〜石浜住宅(東浦線)、刈谷駅前〜知多半田(刈谷・半田線)を直行するメリットが全く考えられません。そもそも、東浦線は中部病院、刈谷・半田線は石浜住宅でいったん折り返す形になっているため、直行といっても時間が余計にかかり、事実上2つの路線に分かれていると言ってもいい状況にあります。
 東浦町内のうち緒川より南側は刈谷方面への志向が強いのですが、石浜住宅より南にある生路・藤江地区から刈谷への移動需要をほとんど捕捉できていない状況にあります。JR武豊線の輸送改善で、JRで大府乗り換えで刈谷に出る方法でも時間・運賃とも遜色ない状態になってしまっています。 また、半田・乙川方面へもJRの方が便利であり、バス利用のメリットは感じられません。バスは半田市立病院(半田市役所前)も通るものの、もともと東浦町から半田市立病院への志向が弱いことや、バス経路が途中で一の草に回り道することもあり、通院のためのバス利用はほとんど行われていません。

 東浦線については、中部病院・あいち健康プラザ乗り入れは一見意欲的なのですが、これも有効に機能しているとは言えません。この時の経路変更で、南森岡台から大府へは位置・所要時間ともかなり不便になってしまいました。むろん、南森岡台〜石浜住宅間から大府方面への利用もほとんど考えられません。
 その一方で、生路・藤江・新田地区から健康プラザ・中部病院への直行公共交通手段がないのも問題と言えます。東浦町はあいち健康の森を抱えて「健康」都市を標榜しているにもかかわらず、クルマを持たない人にとっての健康の森へのアクセスは大変不便な状態です。

2.路線や本数を見ているだけでは分からない、ダイヤの不便さ

 「路線バスリサーチ第3回」では、岐阜市周辺の路線が新岐阜・JR岐阜駅に直行することのメリットを主張しましたが、だからといっていつでも直行型の路線が無条件によいわけではありません。利用実態に合わない長大路線は逆に百害あって一理無しになることがあり、東浦の路線はその典型例と言えます。結果的に、東浦町内のバスのダイヤは大変使いにくいものとなっています。
 例えば森岡台を見ると、朝7時台の大府駅西行きが1本もありません。これでは通勤・通学には使用できません。また、刈谷・石浜住宅線の刈谷中央図書館前への乗り入れは、図書館とともにその近くにある刈谷総合病院へのアクセスが考慮されたものですが、通院需要が考えられる7〜12時には1本もなく、一方夜間に多くの便が経由するダイヤになっています。これでは、いくら病院を経由する路線であっても無意味です。 中部病院乗り入れと同様、刈谷中央図書館前乗り入れも一見意欲的に見えますが、ダイヤを見ればこのようなお粗末な状態にあります。
 このようなダイヤになっている根本的な理由は、長大・冗長路線であるがゆえに各地点でのニーズに応えにくいということです。結果的に、ダイヤは覚えにくく使いづらいものになってしまっています。クルマや鉄道との競争がない時代はこれでよかったのですが、モータリゼーションが進んだ現在、このダイヤでは太刀打ちできるはずもありません。


森岡台バス停
知多バス森岡台バス停 団地の入口にあり、便利な位置とはいえない


3.停留所の位置・ネーミングの悪さ

 森岡台を例に挙げますと、停留所は「森岡台」「森岡自然公園前」「南森岡台」の3箇所が設けられていますが、いずれも住宅密集地からは外れており、利用しづらい位置にあります。 停留所はいわゆる「NIMBY(Not In My Back Yard:近所にはあってほしいが家の前にはあってほしくない)」施設であるため、住宅地に置くにあたっては難しい問題があるということは承知しているのですが、それにしても森岡台の停留所位置は、路線が団地内を貫通しているにもかかわらず、わざわざ使わせないようにしているのかと疑いたくなります。
 次に、施設へのアクセスを考えますと、あいち健康プラザや中部病院は施設に程近いところに停留所が設けられており、合格点がつけられますが、「東浦役場前」「東浦町体育館前」は「前」と付けるにはかなり離れています。私は、モータリゼーション進展によって徒歩がおっくうになった結果「前」と呼べる範囲が狭くなったと考えています。 そういう意味で上記の例は、昔はよかったが現在では不適切であり、やや離れた語感を持つ「口」「入口」「東口」といった言葉を用いるべきでしょう。 このことは細かいようですが感覚的には非常に重要で、「東浦役場前」でバスを降りて歩かされた人は、その後バスの停留所名に不信感を持つことになり、こういうことの積み重ねがバス離れを招くのです。
 このことにも関連しますが、停留所の間隔も旧態依然であり、停留所勢力圏が以前より狭くなっている現在、住宅密集地の周辺ではもう少し停留所を増設してもいいのではないかとも考えられます。

4.鉄道との接続の不備

 東浦町内のバス路線を運行する知多乗合が名鉄グループということもあり、バスとJR武豊線との連携は全く行われていません。JR緒川駅と「緒川駅口」、東浦駅と「生路」は歩いて2分ほどで乗り継ぎ可能ですが、互いの位置案内があるわけでもなくむろんダイヤ接続もなく、実用的な乗り換え点とは言えません。 そもそも、バス路線とJR線とがほぼ並行していることが問題です。
 バスと鉄道との連携が弱いということは、バス路線の弱点であるとともに、JR武豊線の弱点でもあります。武豊線は近年、本数増加・名古屋への直通・車両の近代化・スピードアップなどのテコ入れが著しく、乗客も増加傾向にあるものの、利用状況データを見ると、乗客に占める定期客の比率がかなり大きく、しかもその大部分は通学客と推定されます。 通勤客や買物・レジャー・業務といった定期外客を捕捉できない理由の1つとして、駅へのアクセスが弱いことが挙げられます。また、駅前が未整備で、交通拠点としての役割を果たし得ていません。駅前広場もまともなのは東浦駅のみで、緒川駅はイオン東浦SCのオープンとともにようやく整備され、石浜・尾張森岡に至っては非常に貧弱な状況です。 今のところ、いずれの駅前にも大型バスが入るのは困難な状況にあります。
 武豊線に関して、現在の単線非電化から複線電化にする要望もあるようですが、私は単線非電化でも近代化は可能であり、むしろ問題は、端末交通を受け付ける側にあると考えています。

 以上、東浦町の公共交通網の現状をまとめると、
 ・各路線間の連携がなく、ネットワークとしての体裁をなしていない。
 ・武豊線とバス路線が並行している部分ではバス路線の整理が必要。
 ・武豊線の利便性向上を最大限に活かすための端末交通整備が急務。
となります。


知多バス「東浦役場前」バス停
知多バス「東浦役場前」バス停
東浦町役場からは遠く、停留所で待つのもかなり苦痛。昔はこれでよかったが、今どきこの状態で利用してくれるはずもない。



「東西連絡バス」 そのあまりにもマニアックな存在

 東浦町内のバス路線は、JR武豊線に並行する町東側の地区に集中しています。一方、町の西側にある緒川新田地区や東ヶ丘団地との公共交通手段が従来から存在せず、東側に集中している公共施設へのアクセスをどのように確保するかが問題となってきました。
 そこで平成11年4月から運行を開始しているのが、町による無料の「東西連絡バス」です。運行は知多乗合に委託されています。

 路線は、当初は東浦町役場から西進し、知多半島道路東浦インター付近から南進して東ヶ丘団地に向かい、また戻って新田分団詰所に向かうというものでした。しかしこの形態では、新田地区からは東ヶ丘団地を経由する分だけ遠回りになってしまうことから、今年の4月からは先に新田分団詰所に行き、折り返さないルートで東ヶ丘団地に向かうルートに変更されました。 他にも、経路変更や停留所増設が逐次行われてきています。
 しかし、残念ながらこの東西連絡バスは、朝や午後の緒川小学校スクール輸送以外には、全くと言っていいほど利用されていません。路線見直しにおける前向きな姿勢は認めますが、この路線には「乗る」ための根本的な要素が欠けており、その部分についての見直しが全く行われていないからと私は考えます。

 まず、この路線は他のどの公共交通機関とも連絡していません。発着地の東浦町役場バス停は役場北側の駐車場内にあり、道路からは見えない位置です。また、途中停留所も看板が小さく色も白で目立ちません。町民以外は(町民さえも?)全くその存在を知らないでしょう。 そして、前述のように役場は駅やバス停から離れており、東西連絡バスは公共交通ネットワークの一部として機能することができません。
 また、東浦町役場付近に中心性がないことも問題です。一般に公共施設巡回バスは市役所や町村役場を起終点とすることが多かったのですが、市役所・町村役場に頻繁に用があるとは考えられません。用のないところを起終点や乗り継ぎ点にするのは誤りです。近くに図書館・文化センター・於大公園がありますが、これだけでは十分とはいえません。 図書館や福祉センターは自治体バスにとって大得意であり、市役所・役場に比べればはるかに押さえておくべき場所ですが、東浦の場合、役場から図書館までやはり数分歩く必要があります。さらに、自治体バスの大得意である総合病院や大規模小売店舗・商店街が、役場付近を含め町内にないことは致命的です。

 このように、現状の東西連絡バスはごく限られた用事にしか使うことができません。それゆえに、「無料」であっても利用されないのです。これは、運行本数や運賃を議論する以前の問題であり、抜本的な見直しが必要であると言えます。


東西連絡バス
東西連絡バスとして運行している知多バスの車両
新田分団詰所にて(ETOK様提供)



東西連絡バス「東浦町役場」バス停
東西連絡バス「東浦町役場」バス停
役場駐車場内にあること自体は評価できるが、目立たない場所であることも厳然たる事実である



イオン進出はバスを救うか?

 以上のように、東浦町内の路線バス・自治体バスはいずれも多くの問題を抱えています。それを改善するためには、全路線をいったん白紙に戻して考えなければなりません。
 ここでは、東浦町内のバス路線について、具体的にどのような見直しが必要かについて、私見を述べることとします。

1.基本方針:町内各地から駅・主要集客施設・健康の森へのアクセス確保

 現在の町内知多バス路線は、鉄道に対する競争力を失っているにもかかわらず、鉄道と重複する役割を残し、鉄道の端末手段としての役割をあまり果たせない状況にあります。 また、知多バス・東西連絡バスとも、バスでの移動が考えられる需要をつかむことができるような路線設定にはなっていません。
 したがって、バス路線見直しにあたっては、まず、
・鉄道と役割が重複する部分を整理する
ことが必要です。例えば、石浜住宅から大府方面へは、現在のように大府駅までバスで輸送するのでなく、緒川駅でJRに乗り換える形の方が自然であると言えます。また、刈谷・東浦から半田方面へも、JRのみで十分役割を果たすことができます。
 さらに、具体的なバス輸送の役割として、町内各地区からの
・駅への端末輸送
・総合病院・健康の森・商業施設へのアクセス確保

に主眼を置くことが望ましいと考えます。
 バスは、停留所へのアクセスの不便さはマイカーに及びませんが、鉄道との連携による公共交通ネットワーク形成と、主要施設への乗り入れによる利便性確保によって、それをカバーすることで、ある程度の役割を果たすことができると考えます。

2.鉄道との連携、役割が重複する路線の整理

 JR武豊線の輸送改善が進み、今後のダイヤ充実の可能性が考えられることから、鉄道で担当できる部分のバス路線は整理する必要があるでしょう。
 バスが連携すべき駅は、中型バスの乗り入れが可能な緒川・東浦の両駅が妥当であり、森岡台については現在と同じく大府駅乗り入れが適当です。路線再編の方向性として、具体的には以下の2つが考えられます。
a)大府駅西〜森岡台〜中部病院、刈谷駅前〜石浜住宅間以外は廃止し、残存区間に資源を集中。
b)大府駅西〜中部病院と中部病院〜石浜住宅、刈谷駅前〜石浜住宅〜南藤江とそれ以南(半田市内)とを別系統に分割し、直行運行を廃止。

 a)は、現状の大府駅・刈谷駅へのアクセスが機能している区間のみを残存する案、b)は、現存の運行区間は維持するものの、冗長な経路や折り返しをなくす案です。いずれにしても、緒川駅や東浦駅でのJR線との接続を確保し、フィーダー機能を持たせる必要もあります。 大府駅西〜森岡台〜中部病院の系統は、現在の半田営業所から東海管理所に移管し、大府線と合わせて系統を整理することが望ましいと考えられます。これによって、大府駅から健康の森・中部病院へのバス路線の単純化と森岡台系統の増回が可能であるとともに、健康の森関連系統のうち東浦線のみ名鉄バスカードが使えないことの混乱も回避できます。
 一方、刈谷・半田線に関しても、東浦町・半田市境で需要が途切れることから、現状のように直通運行するよりも、分割してそれぞれ刈谷方面・半田方面指向型ダイヤとすることが妥当であると考えます。刈谷・東浦側は石浜住宅止まりと合わせてネットダイヤとすることが可能となるでしょう。 またこの時、生路・藤江から刈谷駅・刈谷総合病院へのアクセスを整備するために、できれば石浜住宅で折り返し運行するルート設定を何らかの形で解消することや、中央図書館前経由便を石浜住宅行きから南藤江行きに変更することが考えられます(もちろん、理想は総合病院の正面に乗り入れることです)。 また、半田側についても、類似のルートを走る上池線(知多半田〜緑ヶ丘)と一体化して30分ヘッドに整理することが考えられるでしょう。
 東西連絡バスについても、現在のところは町西部から役場とその付近の公共施設へのアクセスという、ごく限られた需要に対応しているに過ぎません。新田・東ヶ丘地区から刈谷・大府・健康の森方面へのアクセスを確保するために、少なくとも日中は緒川駅乗り入れを実施するとともに、緒川駅で知多バスと接続すべきです。
 なお、東浦町東部の既存市街地のうち、森岡台と石浜住宅を除く大半は駅に近いことから、鉄道端末輸送の大部分は今後も徒歩や二輪車・自転車になると思われます。ただし、現在、生路・藤江西部地区では区画整理が進行中で、今後は住宅の増加が見込まれています。 この地区は駅からやや遠く、また既存市街地からやや坂を登ったところにあるため、徒歩や自転車でのアクセスにやや難があり、将来的には駅アクセス手段としての小型バス・乗合タクシーが必要となる可能性も考えられます。

3.イオン・総合病院・健康の森へのアクセス確保

 7月24日に緒川駅東にオープンしたイオン東浦ショッピングセンターは、知多地域最大の巨大商業施設となり、地域の商業地図を大きく塗り替えることは確実です。このことは、今まで商業核を持たなかった東浦町にとって大きなプラスになる可能性がありますが、それとともに路線バスが再生するきっかけにもなりえます。
 巨大ショッピングセンターでは駐車場も巨大となり、入出庫渋滞や、駐車場から店舗までのアクセスが問題となってきます。大店立地法は、この問題への対処のために制定されたものです。そこに、店舗にすぐ入ることができるところまでバスが乗り入れることができれば、クルマに対する有効な武器となりますし、渋滞・周辺環境対策の1つとしても効果的であると考えられます。 また、ある程度まとまった需要が考えられることから、路線バス向きの輸送と言えます。 実際にもこの地域では、この1年間でイオン岡崎、三好アイモール、イオン四日市北といった新設の巨大ショッピングモールの構内に路線バスや自治体バスが乗り入れています。これはイオン東浦でもぜひ実現されるべきです。

 緒川駅東口に新設される駅前広場とイオンとは1ブロック離れているため、両方への最短アクセスを行うために、この区間では全バス路線が重複して運行せざるを得ませんし、緒川駅から来る人も徒歩を余儀なくされます。また、それぞれにアクセスするための自動車の動線も複雑に錯綜すると思われます。互いがもう少し近接していればこのような問題は起きないはずです。 これは施設立地のまずさであり、今後の施設立地においては、公共交通のアクセスや乗り入れを十分に考慮した設計を行っていく必要があることを強調しておきます。
 総合病院は東浦町内にはないため、刈谷総合病院や国立中部病院が対象となります。また、健康文化都市を標榜しているにもかかわらず、健康の森への直通公共交通手段が森岡・緒川東部・石浜地区からしかないという現状もお寒いものであり、できる限り全地区からのアクセスを確保する必要があるでしょう。


げんきの郷
「げんきの郷」に乗り入れた知多バス第1便(01/02/01)
しかし、東浦町から直行でげんきの郷に行くことはできない。東浦町から健康の森方面へも不便である



緒川駅東
緒川駅東口からイオン東浦ショッピングセンターを望む
駅や大規模小売店舗との連携は地域公共交通復権のカギ しかし現状は、殺風景な駐車場が間を隔てている



4.現状で最も有効な路線形態とは?

 最終的に、私が考える路線案は以下のようになります。
1.新田・健康の森線:東ヶ丘〜新田〜役場〜緒川駅〜イオン〜森岡南〜森岡台〜あいち健康プラザ〜中部病院・げんきの郷
2.藤江・刈谷線:南藤江荒子団地〜東浦駅〜石浜住宅〜役場東口〜緒川駅〜イオン〜刈谷駅南〜刈谷総合病院
3.森岡台線:大府駅西〜森岡台〜あいち健康プラザ〜げんきの郷
(大府からげんきの郷へのアクセスをこの路線に一本化し、中部病院・あいち健康プラザ経由便はげんきの郷に行かないことにする。)
 以上によって、町内各地区から緒川駅・イオンへのアクセスが可能となるとともに、1と2を緒川駅およびイオンで相互乗り継ぎダイヤ・運賃体系とすることで、各地区から健康の森・中部病院・刈谷総合病院・刈谷駅へのアクセスも可能となります。この各路線は片道40分弱で運行できるため、2両で日中90分ヘッドが、4両で45分ヘッドが可能となります。 ただし、45分ヘッドではJR武豊線の30分ヘッドとそろわないため、60分ヘッドくらいが妥当な線かもしれません。
 これらの路線については、できれば現在の国道を走るルートでなく住宅密集地帯への乗り入れを図りたいところですが、東浦町内は道が非常に狭く、主要道路以外でバスが通行可能なところが非常に限られているという問題があります。車両を小型化するか、停留所の位置を十分吟味する必要があるでしょう。
 なお、これ以外の路線については、バス形式で実施するほどのニーズは考えられません。過去の自治体バスが絶えず繰り返してきた失敗は、地域間公平性の名のもとに、自治体内の全地区にバスサービスを提供しようとしたことに端を発しています。その結果が、冗長で使いづらく分かりにくい「巡回バス」です。 そもそも「バス」とは、ある程度まとまった需要に対して有効な交通機関であるにもかかわらず、それのみを用いて交通の地域間公平性を確保しようという発想そのものが全くの誤りだと私は考えます。


自治体は地元の公共交通をもっと勉強し、もっと積極的にかかわるべき

 前にも述べましたが、東浦町のバス路線は現在、自治体の補助金によって維持されています。 東西連絡バスの運行が東浦町の予算でまかなわれているのは言うまでもありませんが、いわゆる第3種生活路線である知多バス東浦線と刈谷・半田線は、欠損分が東浦町など関係自治体によって補助されていますし、刈谷・石浜住宅線も第2種生活路線ということで補助が入っています。
 しかし、ここまででも見てきたように、町内の路線は有効な見直しがなされていない状態であり、乱暴に言えば、自治体は「使えない」路線に税金をつぎこんでいるということになるかもしれません。 このようなことは決して東浦町だけの問題ではなく、全国の自治体で多かれ少なかれ見られることであり、その根底には、自治体間路線や廃止代替路線を優遇する国や都道府県の補助制度や、自らの地元のバス路線に対して余りにも無知でありかつ対応ノウハウもスタッフも持たない市町村の体制があるのです。
 この構図は、規制緩和と国・自治体の財政逼迫によって変わっていかざるを得ないでしょう。 その時、自治体にとって重要になるのは、どのような路線であれば公的補助を行う意味があるのかという判断基準の議論であり、またそれを満たす路線をどのように作り育てていけばよいかというバス路線デザイン技術であり、また、民営路線も含めた地域全体としての公共交通ネットワークを維持発展させるためのコーディネーター的役割であると言えます。 具体的には、従来のように収支状況や運行回数、平均乗車密度といったマクロ的な指標だけで議論し判断するのではなく、具体的なダイヤや利用状況をよく調査し吟味することによって、ニーズをつかみ掘り起こすような力をつけていく必要があります。

 イオン開店による路線バスの見直しは全く行われなかったものの、この10月には、現在の東西連絡バスが大きく改編されるといううわさを聞いています。 現在のところ、どのような路線になるのか全く分かりませんが、「路線バスとして存在する意味がある路線」「使える路線」にリニューアルされるかどうか、しっかりと見届けたいと考えています。


※このページを公開後、東浦町内では町運行バス運行開始や知多バスの路線変更などが多数行われています。これらについての追加記事は、こちらをご覧ください。

戻る

加藤博和の「路線バスリサーチ」#4 −東海3県の路線バス情報のページ